全5685文字

 ミッションはすべての仕事、すべての業種にあり、おそらく誰もが、私がそうだったように、先輩たちと仕事をする中で学び、「自分ごと化」してきたのではないか。JALなどの航空業界だけではなく、いかなる業種においても、「なぜ、何のために、自分がここにいるのか?」という信念が熟成されなければ、不幸な事故は起こるし、自分自身の職務満足感が満たされることもない。

 それは「現場の力」が失われていくことでもある。

 そういった先輩と後輩が、上司と部下が関わる機会が、今後ますますなくなってしまうのではないか? その転換期に今私たちはいるのではないか? そう、思えてならない。

 既に「働き方」「働かせ方」の羅針盤は、「効率化」の方向に加速し、「クオリティー・タイム=質の高い時間」が重視され、「クオンティティー・タイム=量を伴う時間」は淘汰されていく可能性が高まっている。

 コストパフォーマンスを最適化することは、「仕事・家庭・健康」という幸せの3つのボールを回し続けるためには必要だろう。
 しかし、生産性や効率化とは一見無縁な無駄話や無駄な関わりでしか、育まれないものがある。

 現場に必要な知識のかなりの部分は体系化するのが難しく、暗黙知のままにとどまり、人々の中に体現され、日常の業務や仕事のなかに現れ、引き継がれていくものだ。

 極論を言えば、「職務満足感」という言葉さえ通じない時代がきてしまうかもしれないという危機感を抱いているのである。

 最後に。以下はこれまで何回も、他のコラムでも書いているのだが、とても大切なことなので今年も書きます。

 JAL 123便のボイスレコーダーが公開された当時、高濱機長のお嬢さんである、洋子さんはJALで働く客室乗務員だった。

 ご自身もご遺族という立場なのに、墜落したジャンボ機の機長の娘であることから、事故当初から想像を絶する苦悩の日々が続いたそうだ。

 「519人を殺しておいて、のうのうと生きているな」――。バッシングを容赦なく浴びせられたという。

 そんな世間のまなざしに変化が起きたのは、ボイスレコーダーが公開されてからだった。

 キャプテンたちの必死な、最後の最後まであきらめず、最後の一瞬までお客さんの命を守るために踏ん張っていた“声”を聞いたご遺族から、「本当に最後までがんばってくれたんだね。ありがとう」と言われたそうだ。

 「ご遺族からの言葉を頂いたときには、本当に胸からこみ上げるものがありました。涙が出る思いでした。父は残された私たち家族を、ボイスレコーダーの音声という形で守ってくれたと感じました。私にとっては8月12日は、また安全を守っていかなければと再認識する、そういう一日かなと思います。父が残してくれたボイスレコーダーを聞き、新たにそう自分に言い聞かせています」(ボイスレコーダー公開時にメディアに洋子さんが語った内容より)

コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)


河合薫氏の新刊、おかげさまで増刷が決定しました。全国の書店にて好評発売中です。新型コロナ禍で噴出する問題は、いずれも「昭和おじさん型社会」に起因している? 本コラムに大幅加筆のうえ新書化!

・「働かないおじさん」問題、大手“下層”社員が生んだ悲劇、
・「自己責任」論の広がりと置き去りにされる社会的弱者……
・この10年間の社会の矛盾は、どこから生まれているのか?
そしてコロナ後に起こるであろう大きな社会変化とは?

未読のかたは、ぜひ、お手に取ってみてください。