こういった現状を鑑みれば・・・・、息子介護は増える。育児も家事も経験のない“昭和の男性”が親の介護をするのが当たり前の時代が到来するのだ。

 介護問題はどこから手をつけたらいいのか分からないくらい問題が山積しているわけだが、「介護やプレ介護をする側」の視点にたった制度設計の組み替えをしない限り、痛ましい事故や事件が増えてしまうのではないか。そして、「私」も当事者になる。……そう考えることはできないだろうか。

「介護する家族」をもケアするドイツ

 そこで是非とも参考にしてもらいたいのが、ドイツの介護保険制度だ。

 ドイツも日本同様「家族が介護する=在宅サービス」を前提にしているのだが、ドイツでは介護サービス事業者だけでなく、家族介護者も介護サービスの提供者と位置付け、「介護する家族をどう評価するか」という視点を重要視しているのだ。

 具体的には、在宅で介護する場合、介護を受ける人は在宅現物給付と現金給付(介護手当)のどちらかを選ぶことができる(併用も可)。現金の使い方は要介護者に任されていて、介護者の報酬にあてるもよし、デイサービスなどに使ってもいい。介護者には同居する家族だけではなく、別居している子や親族、友人などを選ぶことも可能だ。一方、介護をする家族も「社会的な労働者」と位置付けられ、要介護度と介護時間別に一般労働者の労働価値に相当する賃金が支払われる。

 介護離職を防ぐために、家族を介護する人は最大で2年間、労働時間を半分に短縮することができ、その間従来の所得の75%を受け取ることができる。

 受け取った所得は企業から前借りをしたことになるため、介護期間終了後にフルタイムに復帰しても75%のまま据え置かれるが(最大2年)、企業負担になる分は金融公庫が無利子で融資するなど、 社会全体で支える仕組みになっているのだ。

 もっとすごいのは、介護者に「自分を取り戻すための休暇」が認められていることだ。休暇中の介護はショートステイなどを利用することができるので、安心してリフレッシュできる。

 ドイツでは、高齢者(介護される人)の意思の自由を尊重するとともに、「介護などのケア労働の社会的意義の大きさ」をとことん考えた。人は誰もが老いるし、老いれば他者の手助け=ケアが必要になる。親を介護することは「社会的に意義あること」と高く評価した。

 その財源をどうすれば捻出できるか?
 高齢者の人権を守り、選択の自由をどうすれば担保できるか?
 介護労働を社会的に評価するにはどうしたらいいか?
 介護する人が健康でいられるにはどうしたらいいのか?

 といった、まるでパズルのような問題に知恵を絞って行き着いたのが、ドイツの介護保険制度だ。

 高齢化社会における社会保障のあり方に魔法のつえはないし、制度さえつくれば一朝一夕で解決されるものでもない。

 だが、「介護する家族をどう評価するか」という議論は進めれば、リアル介護だけではなくプレ介護にも光が差し込むのではないか。いずれ「私」も直面する問題であるからして。

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