もちろん、介護であれ、プレ介護であれ、息子も娘も、男も女もないだろう。しかし、「息子介護」という言葉があるように、親との関係性に加え家事や掃除などのいわゆる「ケア労働」の経験の違いも影響するように思う。

 件の男性は、母親に心無い言葉を吐いた自分を悔いていたけど、息子による虐待はかねて介護問題の研究の対象だった。1990年代は嫁による虐待が多く報告されていたが、2000年代に入り、息子の虐待が急増したのだ。

 例えば、2004年に医療経済研究機構が実施した調査では、家庭内における高齢者への虐待のうち、息子によるものが全体の3分の1を占め、虐待の内容は「心理的虐待」が最も多く63.6%だったと報告(「家庭内における高齢者虐待に関する調査報告書」)。

“息子介護”を受ける母親の葛藤

 17年の厚生労働省の調査でも、息子によるものが40.3%で最も多かったと報告されている(「平成29年度高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況に関する調査結果」)。

 息子による虐待が増えたのは、高齢化によりそれぞれの親を介護することが増えたことが大きな要因だが、育児や家事経験のなさに加え、男性は女性に比べ周りの手助けをためらいがちなこと、母(=女性)と息子(=男性)という力関係も背景に存在すると考えられている。

 また、親が自立・要支援など、要介護度が低いほど罵声を浴びせるなどの心理的虐待や、たたくなどの身体的虐待が多く、介護度が重くなると介護放棄などのネグレクトが増える傾向も認められている。

 2年前にNHKが「増え続ける“息子介護”」という番組を、自らも母親の介護をしている男性ディレクターが報じたのをご覧になった人もいるかもしれない。

 番組では、慣れない家事に戸惑う“息子”や、母親との接し方に悩んだり、介護の悩みを他人に聞いてもらいたいのに言えない自分に葛藤したりする姿が映し出された。

 どんなに老いても母親は“女性”だ。汚れた下着を息子に見られたくないだろうし、お風呂に入れてもらうのをためらうこともあるかもしれない。そういった“一人の女性”としての恥じらいも、息子介護を難しくさせているように思う。

 いずれにせよ、先日発表された通り女性の平均寿命は87.45歳、男性81.41歳で、女性は7年連続、男性が8年連続で過去最高を更新した。一方、15年の「50歳時の未婚率」は男性が23.37%、女性は14.06%で、今後はさらに増えると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集、2019年」)。

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