記者会見で公表された、院内のメンタルサポートチームが5月に職員に対して行った「気持ちの変化チェックリスト」の結果は、実に興味深く、人間の複雑な心境も垣間見えた。

 チェックリストの「この仕事に就いたことを後悔している」という問いに、「はい」と答えた職員は6%(14人)で、11個の質問中で最も少なかった。院長はこの「6%」という回答に「医療者としての職員の気持ちを感じることができた」と、声を詰まらせた。

 その一方で、多かったのは「上司や同僚あるいは組織に対して怒り・不信感を抱いている」が47%(101人)、「精神的に疲れている」44%(96人)だとしていた。院長はこの結果に関する私見を述べることはなかった。

 恐らくこの「医療者としての誇り」と「病院組織への怒り」という矛盾こそが、「かける言葉がなかった」という会見の言葉の真意だったのではないか。感染を専門とするスタッフがいながら、初期の対応が遅れて感染を拡大させてしまい、職員に多大なる負担をかけ、その上大切な多くの患者さんの命を奪ってしまった。大きな責任を感じながらも、できることをやるしかなかった怒濤(どとう)の日々を思わせる。

 そんな責任者としての自責の念と、それと同じに医療現場に携わるひとりの医師として、後輩でもある病院のスタッフの仕事への誇りに感動し、院長は深く感謝したのだと思う。

医療者たちの手記も公開されている

 そして、これはあくまでも私の妄想だが、「悪いのは責任者である自分」という気持ちと、過酷な状況でも最善を尽くした“名もなき戦士たち”=職員たちの存在を、どうにかして世間に伝えたくて、手記を公開したのではないか。

 美化するわけでも、問題をすり替えるわけでもない。ただ、ひとりの医療者として、医療に関わる人の思いを伝えたかったのだと思う。

 永寿総合病院のHPに、看護師、医師の方3人の手記は公開されているので、ご興味ある方はぜひ、ご覧いただきたいが、以下に、一部を抜粋・要約で紹介する。

  • 「正体がつかめない未知のウイルスへの恐怖に、泣きなか゛ら防護服を着るスタッフもいた。防護服の背中に名前を書いてあげながら、仲間を戦地に送り出しているような気持ちになった」(看護師)
  • 「頑張れ、永寿病院 地元有志一同」の横断幕が目に入り、「まだ私たちはここにいてもいいんだ」と思えた(看護師)
  • 「当初は5階病棟のみの集団感染と考えていたが、4月上旬には8階の無菌室にまで広がっていたことが判明。事態の重大さにその場に座り込んでしまった」(血液内科医師)
  • 「未感染の方を含め50人を超える診療科の患者様の命を守るべく、 研修医ともども、少ない人数で日々防護服に身を包み、回診に当たる日々が1カ月以上続いた」(血液内科医師)
  • 「勤務中にコロナウイルス感染症に罹患(りかん)した。感染対策には細心の注意を払っていたが、入院された方がいつの間にかコロナウイルス感染症を合併されるという状況が出現、私もいつどこで感染したかが分からないことに慄然とした」(医師)
  • 「症状の強さと酸素数値の悪さから死を覚悟した。妻に携帯電話で『死ぬかもしれない、子どもたちをよろしく頼む』と伝えた。意識が回復した際には、生きていることが不思議だった」(医師)

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