(写真:Shutterstock)
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 新型コロナウイルスに214人が感染し、43人が死亡。国内最大規模の院内感染を招いた永寿総合病院・湯浅祐二院長の記者会見が1日に行われた。

 会見の資料として、看護師や医師などの手記を公開したことについて、「自分たちの失敗を美談にすり替えるな!」といった批判が一部あったようだが、個人的には、質疑応答も含めた1時間20分超にわたる記者会見は、1ミリの無駄もない、実に誠実な会見だったと受け止めている。

 特に、批判の的となった“戦場”を経験したスタッフの生きた言葉=手記は、未知のウイルスの脅威を知る上で極めて重要な資料だったし、湯浅院長が時折声をつまらせ、明かした事実も、実に考えさせられる内容だった。

 感染症に襲われた医療現場のリアルは、働くということ、役割が人に与える影響力、ミッション、存在意義、チームなど、根本的な問いを投げかけていた。

集団感染の現場の記録を次に生かすには

 たくさんの患者さんの命が奪われ、大切な人の手を握ることもできなかったご家族の心情を思うと複雑な心境になる。

 だが、「亡くなられた患者さんのお荷物から、これまでの生活や大切になさっていたもの、ご家族の思いなどが感じ取られ、私たち職員だけが見送る中での旅立ちになってしまったことを、ご本人はもちろん、ご家族の皆様にもおわびしながら手を合わせる日々でした」という湯浅院長が会見冒頭で紡いだ言葉は実に重く、外野にいる人間があれこれ言うべきことではないと思った。

 医療現場に立ち続けた人たちは、悲しむ患者さんとご家族への自責の念から今なお逃れられないからこそ、あそこまで丁寧な記者会見になったのではあるまいか。

 いずれにせよ、記者会見の内容はとても貴重なものだったので、今回は会見の内容と手記の一部を取り上げながら、あれこれ考えてみる。

 今回の集団感染の起点となったのは、2月26日に脳梗塞の診断で入院した患者さんだったそうだ。26日といえば、安倍首相が全国すべての小中高などに臨時休校を要請した前日で、当時、国内の感染者数はわずか20人(※厚生労働省報道発表資料より。なお累計は2月26日時点で167人)、東京都に至っては3人で、“クラスター”だの“院内感染”だのという言葉も一般的じゃなかった頃に当たる。

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