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(写真:shutterstock)

 どうやら早くも明るい兆しが見えてきた、らしい。

 緊急事態宣言後に暴落した日経平均株価は、わずかひと月で回復し、乱高下を繰り返しながらも全体的には上昇基調をたどっている。また、内閣府が8日に発表した5月の景気ウオッチャー調査(街角景気)では、過去最低水準を付けた4月からは大幅に持ち直した。

 結果報告書によると基調判断を、前の月の「新型コロナの影響により、極めて厳しい状況にある中で、さらに悪化している」から、「新型コロナの影響により、極めて厳しい状況にあるものの、悪化に歯止めがかかりつつある」に上方修正したという。

 3~4月の段階では多くの専門家たちが、「リーマン・ショックより厳しいし、長引く。経済の回復にはかなりの長期化が予想される」と指摘し、感染拡大防止策の最中には「命か経済か」という言葉が繰り返された。なので“明るい兆し”が見えてきたなら、よかった。期待も込めて。うん、ホントに良かった、と思う。

 が、なんだろう、この奇妙な感覚。“明るい兆し”が報じられた翌朝、聞いたラジオの影響だろうか。経済コンサルトを名乗るコメンテーターが、「底は打ちました。4月は休業してたので下がって当たり前なんです。このあとはどうやって経済を回復していくかでしょうね。厳しい状況にあることは否定できませんが、心配したほどじゃなかったですよね~。ガハハハ」と、のんきに話すのを聞き、心がザワついてしまった。ああ、また忘れられてしまうのか、と。

早くも惨禍を忘れて次へ行こうとしている

 いや、コメンテーターのせいだけじゃない。

 海の向こう米国では、富裕層の資産が過去のおよそ3カ月間で、5650億ドル(約62兆円)も増え、現在の資産総額は3兆5000億ドルもあるという。しかも、感染拡大初期から19%も増加し、アマゾンを率いるジェフ・ベゾス氏の資産だけでも、3月18日時点と比べて362億ドル増。日本ではそういった数字は明かされてないけど、コロナだろうとなんだろうと、金持ちは痛くもかゆくもない。超上級国民……。

 と、なんだか奥歯に物が詰まったような“まくら”になってしまったが、私はこの数日間、東日本大震災から数カ月ほどたった頃と同じような、空気を世間に感じている。

 東日本大震災が起き、たくさんの命が奪われ、たくさんの人たちが家や仕事、大切な人を失った惨状をまのあたりにし、日本中の誰もが「人生において大切ものは何か?」「幸せとは何か?」を自問自答し、自分たちの働き方、生き方に疑問を持ち、物質的な豊かさではないものを求めようとした。

 ところが、いつのまにやら、経済、成長、経済、成長の繰り返しになった。カネ、カネ、カネと、株価に一喜一憂し、GDP(国内総生産)を押し上げることばかりに躍起になった。