厚労省は3月下旬から「正確な実態を把握できなくなっていた」のに、4月中は何も手を打たなかったのだろうか。その頃は「オーバーシュート」だの「感染爆発」だのと、感染者数に日本中が注目していた時期だ。保健師さんたちの多忙ぶりも連日報道され、猫の手も借りたいほどてんてこ舞いだった。

 そんな状況で、従来通りファクス経由で報告されることを待っていたのは、なぜだ。だいたい、散々「テレワークを!」「印鑑文化を見直しましょう!」「名刺交換はSNSで!」と国は呼びかけているのに、厚労省は「自治体が定めた書式の紙を印刷し、そこに手書きで多数の必要事項を書き込み、ファクスで送る」というこれまでの感染症報告で定められた時代錯誤の方法を、問題だと思わなかったのだろうか。

 オンライン化などすぐにできるのに、こうした“昭和脳”を放置し続けた理由は何なのか? あちこちでさまざまなことに対して誹謗(ひぼう)中傷が飛び交っているのであまり責めたくはないが、デジタル化に対応できていない“おじさん課長”が、壁になったのかもしれない、などと想像したりもする。

 例えば、
 部下A「課長、オンライン化しませんか? その方が保健所の負担軽減になるし、正確に集計できます」
 課長「それ、いま急いでやる必要ある?」
 部下「……」
 と一蹴されてしまったり、

 部下B「課長、オンライン化はすぐにできますから、やりましょうよ!」
 課長「俺、オンラインって信用できないんだよな。入力ミスとかありそうだし、やっぱり紙じゃないとさ、安心できないっていうか」
 部下B「……」
 といったりしたことが現場で起きていたのではないか?と妄想している。

保健所とスタッフの大幅減が背景に

 そもそも保健所が大パニックに陥っているのは、1994年の行政改革で全国の保健所を徹底的に削減したことに起因している。にもかかわらず従来の「情報待ちの姿勢=都道府県から報告される感染者の情報を1人ずつ積み上げる方式」を貫くとは私には理解できない。

 保健所の設置基準を10万人から30万人規模に緩和し、1992年の時点で全国852カ所にあった保健所は、2019年には472カ所と、実に45%も削減された(厚生労働白書)。さらに、国は運営費助成金を削減し、自治体に保健所業務の一部を肩代わりさせるとともに、保健所の管轄エリアの広域化と統廃合、人員削減を進めたのだ。

 先日、全国保健所長会の内田勝彦会長らが、オンラインによる記者会見を行い、全保健所を対象に行った緊急アンケートの結果を報告した際も、「とにかくマンパワーが決定的に不足している。いまは本当に人が欲しい」と訴えている(調査期間は3月25日~4月22日)。

 調査では、過労死ラインの月80時間を超える時間外労働が頻発し、土日の半日だけを休む以外はぶっ通しで働き、利用者から「電話がつながらない」「PCR検査が受けられない」などの不満や誹謗中傷を浴びている過酷な労働状況の実態が明らかになった。

 例えば、人口40万人規模の東京都葛飾区で感染症を扱う保健師はたったの4人、大阪府枚方市でも5人しかいないとのこと。その少ない人数で、コロナ感染の電話相談に加え、検体運搬、感染疑いのある人の経過観察、感染経路や濃厚接触者の調査などの業務を行っているのだ。

次ページ 情報の不透明さが招いた混乱