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(写真:Shutterstock)

 恐れていたことが、ついに起きてしまった。

 18日、大阪市淀川区のマンションで、57歳の男性と母親(91)が遺体で見つかった。残された遺書には、「母に『死にたい』と言われ、糸が切れた」と書かれ、無理心中を図ったとみられている。

 報道によると、男性の母親は数年前に市内の特別養護老人ホームに入所。男性はご近所でも孝行息子として知られていて、ホームにも毎日のように訪れ、朝から晩まで付き添っていたそうだ。

 ところが、新型コロナウイルスのため事態が一変する。感染拡大防止のため、母親との面会が一切できなくなってしまったのだ。

 男性は毎日のように施設に電話し、母親の安否を確認していたが、「母親がかわいそうなので、一時的に家に連れて帰りたい」と申し出たところ施設に断られた。そこで退所させることを決意。自宅近所では男性が介護用のおむつをいくつも買って戻る姿が目撃されていたというが、退所の翌日の晩、悲劇は起きた。

 男性は父親が他界した後実家に戻り母親を介護していたが、在宅では限界になり、数年前からホームに入所させていたという。

高齢者を不安にする新型コロナ

 高齢者にとって、大切な家族は心のよりどころであり、人と会ったり人と話したり、体を動かすことは生きる力の火を燃やす大切な行為だ。一方、そういった日常が途絶えるとストレス状態に陥る。精神的に不安定になったり、認知機能が下がったり。環境の変化は精神的にも肉体的にも、高齢者の生きる力を著しく低下させる。

 91歳の母親は息子にホームで面会もできず、精神的に疲弊していたのだろうか。会えない母親を心配し続けた男性は、精神的に限界だったのだろうか。コロナ感染拡大で今まで経験したことのないえたいの知れない不安が、「もう十分生きた。もういいよ」という気持ちに、親子をさせてしまったということだろうか。

 親子に何があったかは二人にしか分からない。

 ただ、私も年取った母親と日々接しているので「少しでも一緒にいてあげたい」と、引き取りたくなる気持ちは痛いほど分かる。

 高齢者は私たちが想像する以上にコロナを怖がっているし、そんな親を目の当たりにしたら、かわいそうで。

 理屈じゃない。ただただ切ないのだ。人生最後の時間を1日でも多く笑顔で過ごして欲しいと思うと、自分にできることはやっておきたいし、後悔したくない。件の男性もそんな気持ちを抑えきれず、「退所」というリスクの高い選択に至ったのだろう。