(写真:Shutterstock)
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 「結局、事情を考えると、突然解雇されても文句が言えないんです。今月の支払いができず食べ物もない人間がいるってことを……、もっと理解してほしい」

 こう話すのは勤続年数20年のベテランドライバーの男性(60)である。

 政府が「検討します」「検討しているところ」「検討中」と壊れたレコードのように検討検討と言ってる陰で、手元に残された最後の1万円の現金を握りしめ、不安に押しつぶされそうになっている人たちがいる。

 「30万円もらえるまでどうにかしのがなきゃ」と踏ん張っていたのに、検討を重ねてまた問題が生じ、「やっぱり10万って。何を信じたらいいのか、もうわけが分からない」と、ただ天を仰ぎ、体を動かす力すら湧いてこない……。

 先日、SNS(交流サイト)で「フィールドワークのインタビューを、今こそやりたいのにできない状況なので、新型コロナウイルスの影響で、派遣切り、解雇、倒産、減給など、生活が立ち行かなくなった方、メッセージでお知らせください!」と呼びかけたところ、たくさんの人たちからメッセージやメールが届いた。

追い詰められた人たちには時間がない

 冒頭の男性もその一人。他の方たちも、それぞれ事情は違えど「支払いができない」と追い詰められていた。

 前回のコラムで、派遣切りや解雇になった人たちの「人数」を書いたが、一人ひとりのお話を聞くと「数字」では決して知り得ないそれぞれのストーリーがあった。数字からは決して伝わらない「体温」と言い換えてもいい。

 こちらのコラム(「新型コロナが浮き彫りにした格差社会の危険な先行き」)で、「既に、非正規やフリーランスの人たちの収入が激減したり、途切れたり、雇い止めに遭ったりするなど困窮している状況は伝えられているが、彼らはもともと“リソースの欠損”という、極めてストレスフルな状況に慢性的に苦しんでいる人たちだ」と書いたが、実際に一人ひとりのストーリーを知り、改めて“リソースの欠損”の重さを痛感した。

 毎月入ってくる“べき”ものが突然途切れることは、命の灯を途切れさせるくらい深刻で、10人いれば10通りの“事情”でたちまち窮地に追いやられる。

 世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立ち、生きる力を支えるリソースが欠損している状態で生活をしている人たちにとって、「検討また検討」問題が起き、さらに検討を待っている余裕など一切ない。

 そんな彼らの「声にならない悲鳴」を受け止める想像力を、“検討好き軍団”は見事なまでに持ち合わせていないのだ。

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