そして、障害者枠で雇用されている人もまた、今回の事態で窮地に追いやられていた。

 「私は、障害者採用で現職に就き4年目になります。

 時給制ですが、基本的には契約が毎年更新されてきたので、今回のような社会情勢の悪化は予想すらしていませんでした。今は仕事が減り、自宅待機が続いていますが、明日にも解雇されるんじゃないかって、毎日おびえています。

 私よりも悲惨な状況の方がいることは承知しています。ですが、私は未認定の希少難病患者なので、どんな契約であれ非常に不安です。当然ながら、自宅待機中の賃金も発生しません。

 つい先般、併給している障害基礎年金の受給日でした。今回のコロナ騒動が起こって以来、初めての受給日です。

 私は、感染防止の観点でコンビニのATMでお金を引き出しましたが、『自分は国によって生かされているんだ。だから、自死とか絶対しないように、毎日を健康に過ごすんだ』と、握りしめた現金にそう誓いました。

 このような障害者の悲惨な状況を、少しでも知っていただければうれしいです」

スピードに欠ける政策

 今回紹介できなかった人たちにも、それぞれの人生があり、それぞれの事情があった。

 障害を持つ子供を育てるシングルマザー、脳梗塞で昨年まで自宅療養し、やっと再雇用が決まり「がんばろう!」と意気込んだ直後にコロナ禍で契約切りにあった50代の男性……など、10人いれば10人の事情がある。

 お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなどのリソースが、欠損している状態で生活している人たちが、今、この時間も「死んじゃだめだ」と必死に自分に言い聞かせている。

 厚生労働省によると、解雇や、非正規社員で雇い止めに遭った人は4月7日時点で、見込みも含め1677人と2週間でほぼ倍増した。この「1677」という数字だけでは知り得ないそれぞれの人生が存在するのだ。

 WHO(世界保健機構)が「緊急事態」に該当すると宣言したのは1月30日、クルーズ船の感染拡大が1月下旬、2月中旬には多くの人たちが確実に感染が広がってきていることを憂い、安倍晋三首相の小中高一斉休校要請が出されたのは2月末だった。

 この2カ月間、政府は何をやっていたのか。

 「高齢者は出歩かない」「耐えられない会社はつぶす」「貯金くらいあるだろ」「電子マネーにしないと貯蓄に回ってしまう」……etc.etc.,。

 政策に関わる人たちは、数字に表れない「彼らの顔」を想像したことがあるだろうか。お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなど、リソースを豊富に持っている人には、リソースの欠損状態が理解できない。

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