コロナ以前は私たちと同じ日常の中にいる“隣人”だった彼らは、そんな状況下でもみな驚くほど謙虚で、「もっと怒っていいのに!」と言いたくなるほどだった。

 その一方で彼らは皆、「自分のような人間がいることを知ってほしい」と強く訴えた。「自分と同じような立場の人の、悲惨な状況を知ってもらえたらうれしい」と、ご自身の状況を実に丁寧に、かつ冷静に語ってくれた。

 今回は皆さんにも「数字の裏に隠される声」を聞いてもらいたい。ごく一部ではあるが、彼らの声を聞き、感じてほしい。

 「解雇が通告されたのは、来月のシフト表をもらった次の日でした。あまりにも突然のことで、何が何だか分からなった。クルーズ船の感染があってから仕事にも影響が出ていたけど、社長は『なんとかするから大丈夫だ。おまえたちのことは守る』ってずっと言い続けていました。

 先月は社員に一律10万円の特別貸し付け(前借り)もしてくれました。私たちの仕事は歩合制なので、本当に助かりました。だから解雇されても文句が言えなかったんです。社長も苦渋の選択だったと分かりますから」

苦しい出来事が重なると生きる力を奪われる

 「ただ、解雇される2週間前に介護をしていた父が亡くなり、葬式代やら納骨代やらで出費がかさんでいたので、少ない貯蓄もなくなっていました。斎場で焼いてもらうだけでも最低10万かかります。お恥ずかしい話ですが、今手元に現金はほとんどありません。食べるものもありません。残ったのは借金だけです。

 生きる希望はなくなりつつあります。……疲れました。

 頼れる家族も親戚もいないので、どうにかしなければならないのですが、突然の失業で体調があまり良くないのです。何が何だか分からなくて動く力が湧いてこない。自分が情けないです。

 娘が一人いるんですけど……、色々と複雑な事情があって10年以上会っていませんが、学校の先生をやっているんです。失敗続きの私の人生で、唯一良かったことです。

 話を長々と何度も聞いてくださり、ありがとうございました。メンタルが回復したら、行動しようと思います。私のような人間がいるということを、どうか世間に発信してください」

 男性は40歳まで某企業に勤めていたが、体を壊して退職。その後再就職したのが解雇された会社だった。「社長のなんとかするから大丈夫だって言葉に、嘘はなかったと思う」と彼は言う。想像以上に事態が悪化したことが問題なのだ、と。「事情を考えると解雇されても文句は言えない」と繰り返したのである。

 父親の他界は、誰もがいつかは経験する出来事だ。だが、同時並行で解雇劇が起きてしまった。そんな人生の理不尽に見舞われた彼に、どんな声をかければいいのか、気の利いた言葉も浮かばず、私は、ただ話を聞くことしかできなかった。

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