「緊急事態宣言」でザワついてる最中ではあるが゙、防止拡大の成否にも影響思しそうなので感染者が急増し不安感が急激に高まった現時点(4月3日)で起きたことを書き残しておこうと思う。テーマは新型コロナ感染拡大が始まった初期から、ずっと問題になっていたことの一つ、「透明性と伝え方」についてだ。
先週の火曜日(3月31日)、立て続けにFacebookとTwitter経由で「情報提供」があった。内容はいずれも、LINEに送られてきた「第1回新型コロナ対策のための全国調査」に関するものだった。
「なんでアンタにくるんだ?!」と不思議に思うかもしれないけど、かれこれ10年以上あちこちで社会問題を発信していると、こういった情報提供は決して珍しいことではない。「ご参考までに!」とご丁寧に送ってくださる方から、「〇〇で△を書いてくれてありがとう! こんなこともあるんです!」といったリアル体験、「河合さん! どうにかしてください!」といった悲鳴まで、SNS時代ならではの直メッセージがリアルタイムで届く。ふむ、実にありがたいことだ。
で、今回。LINE調査に「これって何のためか分かりますか?」「とりあえず答えちゃったんですけど、大丈夫ですかね」「厚生労働省がホントにやっているのでしょうか?」「これって初期診療でしょうか?」という疑心暗鬼コメントが、LINE画面の写真とともに送られてきたわけだが、その画像を見て驚いた。
本来、こういった積極的疫学調査は国立感染症研究所、あるいは大学などの公的な機関によって行われるものなのに、なぜ「LINE」なのか? 「『感染拡大の状況を正しく把握し、私たちの生活を守ること』を目的に実施します」と書いてあるが、倫理面に関することや同意を得る部分がない。「この調査について」というリンクは貼ってあるけど、「リンクに飛ぶのも怖い」( by 情報提供者)。
「調査の目的、対象、期間、分析方法」と「個人情報の取り扱い」などの倫理面を明記し、同意を得た上で調査に参加してもらうのは、調査の基本中の基本だ。
社会心理調査を生業とする研究者の端くれとして、「なんでもやればいいってもんじゃないでしょ」と、あまりの大ざっぱさにあきれてしまった。
とはいえ、厚労省のマークがデカデカと付いているので、おそるおそる画面の「この調査について」を押してみたところ、LINEのWEBサイト「厚生労働省に協力して、「LINE」で国内ユーザー8,300万人を対象とした第1回「新型コロナ対策のための全国調査」を明日実施」が開いた。
ただ「なぜ、LINE? 厚労省のサイトにつながらないのはなぜ?」という素朴な疑問から、厚労省のHPに飛んだところ……探せど探せど見つからない。そこから疑念を晴らすための厚労省内ネットサーフィンが始まってしまったのである。
調査に関する情報が分かりにくい
順を追って説明しよう。
初めに、ホーム画面トップにある「新型コロナウイルス感染症について、こちらをご覧ください」をクリック。「お知らせ」を舐(な)めるように確認するも、「ガールズコレクション動画公開」やら「安倍首相とテドロスWHO事務局長との電話会談」はあるけど、「LINE」という文字も「全国調査」という文字もいっさい見当たらない。
画面をスクロールし、膨大なテキストの羅列の中から、関係ありそうな情報を探すが……ない。何もない。目を凝らして上から下まで繰り返しスクロールするけど、「LINE」や「全国調査」と関連ある文字を、“私の視界”は捉えることができなかった。
「だったら検索だ!」と、右上のカスタム検索のボックスに「LINE」と打ち込んだところ、ありました! やっと、本当にやっと見つかりました!
ホーム > 報道・広報 > 報道発表資料 > 2020年3月 > の中に、「「厚生労働省とLINEは『新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定』を締結しました」という資料にたどり着いたのである。ふ~っ。
ただ、これを読んでもLINEと締結に至るまでの経緯が分からなかったので、報道発表資料 > 2020年3月 に戻って確認したところ、【2020年3月27日(金)掲載】の欄に、「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定締結の呼びかけについて」を発見した。(以下、要約)。
──クラスターの発生を封じ込めるため、様々な手段を講じ、発生したクラスターを早期に発見し当該クラスターに対して十分な対策を講じることが必要となる。
(中略)
ついては、新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報をご提供いただける民間事業者等と情報提供に関する協定を締結し、新型コロナウイルス感染症のクラスター対策の強化を図ることを検討している。賛同いただける民間事業者等におかれては担当までご連絡いただくようお願いする──
この「報道発表資料」、すなわち「そもそもの調査の目的」と「厚労省が求めていたこと」を知るまでにかかった時間、労力といったら、結構なものだった。もし、これらの「報道発表資料」の内容が周知徹底され、大手メディアを通じて、全国に繰り返し情報提供されていれば、そもそも私のところに「これは何?」と不審に思った人からの情報提供などなかったはずだ。
この情報の不透明さと伝え方の稚拙さこそが、日本の最大の問題なのだ。
詐欺メッセージまで誘発した調査
そもそも調査を行う意義は、実態把握だけにあるわけじゃない。調査に「私」が参加することは、「私」が当事者になることを意味する。「各人の行動変容」が求められている今だからこそ、今回のような大規模なLINE調査の情報提供は必要不可欠だった。
そして、緊急事態宣言に至った「今」、この調査を継続して紐づけて実施することは、極めて重要となる。
事前に情報提供を徹底すれば、偽メッセージ問題も防げるはずだ。
ご存知ない方のために補足しておくと、調査が行われた31日、厚労省は「このアンケートを装い、クレジットカード番号等を尋ねる等詐欺が疑われる事案が発生しているとの情報が寄せられている」と注意喚起を促した。とにもかくにもすべてが後手なのだ。
もう1つ気になる点を加えておくと、、研究者が社会調査を実施する場合、倫理的配慮は厳しく周知されていて倫理審査委員会の審査を要求される。今回の調査でそのあたりはどうなっているのか。調査実施はLINEという民間企業が担うので、倫理的配慮や同意書は必要ないのだろうか?
厚労省にはぜひ、教えてもらいたいものだ。
3月10日のコラムで(「新型コロナが引き出した大衆の深層心理の闇」)、リスクコミュニケーションについて書いたが、今後はさらに密なコミュニケーションが重要になる(その一部を以下に、再掲する)。
「リスクコミュニケーションでは、二次発信となるメディアの役割も極めて大きい。にわか専門家や、コメンテーターなどが、国民の不安をかき立てるようなことがないように、一次情報発信者(専門家チーム)と密接に連携する」
緊急事態宣言発令を目前にひかえた「今」、リスクコミュニケーションではメッセージ゙の主な受け手である「私たち」の役割も大切なので、改めて共有しておくべき基礎知識を振り返りまとめておく。
2月25日、政府は「新型コロナウイルス感染症対策本部会議」を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定。その中で「(新型コロナウイルス)感染の流行を早期に終息させるためには、クラスター(集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防止することが極めて重要である」という認識が示され、厚労省が設置したのが「クラスター対策班」だ。
こちらの「報道発表資料」にその旨が書かれ、添付の別紙を見れば分かるとおり、専門家チームの核が「ク ラスター対策班」だ。しかしながら、厚労省も国もその存在をきちんと「私たち」 に伝えることはなかった
クラスター対策班の活動を知る意義
私自身、3月22日のNHKスペシャル「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~」を見て、初めて知ったのだ。
「クラスター」という言葉だけは日々報道されていたけど、番組を見て厚労省のクラスター班の方たちがやっていること、なぜクラスター分析なのか?といった、つまり「今、日本が何を根拠に検査やら対策を講じているのか」が明確になり、腑に落ちた。
画面に映し出されるクラスター対策班の方たちの“汗”に、国の中枢で不眠不休で耐えている「現場の名もなき英雄」たちの踏ん張りにとても感謝したし、コロナ対策への批判にいたずらに流されなくなったし、何よりも自分のやるべきこと、やらなきゃいけないことが少しだけクリアになった。
さらに、3月30日(月)に東京都が開いた緊急会見に、クラスター対策班の西浦先生(北海道大学大学院教授)が同席し解説してくれたことで、「なぜ、もっと検査をしないのか?」という疑問も明らかになった。
「今までどおりのPCR検査を行っていくということか? 抗体検査のような大規模な調査を行わないのか?」という記者の質問に対し、「PCRの患者数は、全感染者中の氷山の一角でしかないが、爆発的な患者数の増加がないことや、蓋然性が高いことを僕たちで確認している。抗体調査は、人口の何%が感染してるのかをリアルタイムで理解するために実施するもの。今警戒すべきは2~3日ごとに倍々で感染者が増え始めてないとことをしっかりと確認し、もし増えているということがあれば、速やかに対策を実施する必要がある」とした。
その上で、「例えば、帰国者・接触者相談センターを通じて受診した外来患者数を見ると、発熱し電話相談をして受診した人の数が診断される前の段階で見られる。それが増加傾向にあるかどうかが見れるし、他にも多角的なデータを使って確認しつつ、その報告をする」と回答している。(注:3月30日時点の回答)
つまり、今回のLINE調査は患者数の増加を確認するための「多角的なデータ」の1つだったのだ。
大手メディアはこの記者会見の内容の「小池知事」の部分は繰り返し報じていたけど、それ以外はYouTubeなどを探して見るしかなかった。4月1日に政府の専門家会議が行った記者会見も同様である。専門家の先生たちはかなり踏み込んだ」「私たちが知るべき対策」を発言していたのに、テレビでの扱いは小さかった。「医療崩壊」という刺激的な言葉が、「感染爆発」「ロックダウン」という言葉とともに繰り返されてしまったのだ。
記者会見の内容をすべて知りたい方は、厚労省のHPの「新型コロナウイルス感染 症について、こちらをご覧ください」から、「お知らせ」の「新型コロナウイルス 感染症対策の状況分析・提言」をクリックすれが見ることができるが、ここで示された対策は今日にも、発令されるであろう「緊急事態宣言」をきちんと理解するためにも有用なので、以下に掲載しておく。
自分ごとにするためにメディアの役割は大きい
「感染拡大警戒地域」──直近1週間に感染者が大幅に増加
・オーバーシュート(爆発的患者急増)を生じさせないよう「3つの条件が同時に重なる場」(換気の悪い密閉空間、人が密集している、近距離での会話や発声、以下「3つの密」)を避けるための取組(行動変容)を強く徹底。
・期間を明確にした外出自粛要請
・10名以上が集まる集会・イベントへの参加を避ける
・家族以外の多人数での会食などは行わない
・学校の一斉臨時休業も選択肢として検討すべきである
「感染確認地域」──感染者数が1週間前と比較して一定程度の増加幅に収まっている
・人の集まるイベントや「3つの密」を徹底的に回避する対策をしたうえで、感染拡大のリスクの低い活動については実施する
・屋内で50名以上が集まる集会・イベントへの参加は控える
・感染拡大の兆しが見られた場合、感染拡大のリスクの低い活動も含めて対応を更に検討する
「感染未確認地域」──直近の1週間に感染者が確認されていない
・屋外でのスポーツやスポーツ観戦、文化・芸術施設の利用、参加者が特定された地域イベントなどは、感染拡大リスクの判断を行い注意をしながら実施する
・その場合でも、「3つの密」を徹底的に回避する対策は不可欠
上記を、日々感染者数を報じるときに繰り返し伝えることで、見ている人は「自分の行動」の参考になる。もちろん日々専門的な知見も更新されるので、場合によっては上記を修正することだってあるに違いない。イベントの人数制限の10人が5人になるかもしれないし、家族だけの会食もやめた方がよいということになるかもしれない。だからこそ、メディアが毎日伝える必要がある。
もちろん情報を受け取る側=メディアの問題もあるだろう。
このコラムが公開になる4月7日。日本は、東京は、そうなっているのだろう。政府、厚労省、メディアさま、どうか「透明性」を大切にしてください。刺激的な言葉だけを繰り返すのではなく、クラスター対策班を核とする専門家会議の先生たちが伝えたいことをきちんと伝えてください。
よろしくお願いします。
■修正履歴
1ページ目のリンク先のURLを正しいものに修正しました。[2020/04/07 11:35]
『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)
権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、
日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が
原因だった? “ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。
“ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。
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