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 そもそも私たちの「健康」を決定するのは、遺伝子などの生物学的因子だけではない。所得、職業、学歴、家族、社会的サポートなどの、社会経済的因子によるものが極めて大きい。この世に誕生してから命が絶えるまで、私たちはさまざまなストレスに遭遇する。ストレスは人生にあまねく存在し、人生とは「ストレスへの対処」の連続である。

 その対処の成否を左右するのが、“リソース”だ。

 今後さらに深刻になるであろう格差問題は、健康社会学的に捉えればリソースの問題である。リソースは、専門用語ではGRR(Generalized Resistance Resource=汎抵抗資源)と呼ばれ、世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立つもののこと。

 「Generalize=普遍的」という単語が用いられる背景には、「ある特定のストレッサーにのみ有効なリソースではない」という意味合いと、「あらゆるストレッサーにあらがうための共通のリソース」という意味合いが込められている。平たく言い換えれば、「いくつもの豊富なリソースを首尾よく獲得し、保持していくことが重要」であり、リソースは生きる力の土台となる。

 お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなどはすべてリソースである。リソースは対処に役立つことに加え、ウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態)を高める役目を担っている。例えば、貧困に対処するにはお金(=リソース)が必要だが、金銭的に豊かになれば人生における満足感も高まるといった具合だ。

ストレスに耐えるリソースの大元はカネ

 一方、リソースの欠損は、慢性的なストレスになる。前回「慢性的なストレスにさいなまれている人は、突発的なストレスに襲われたときにダイレクトにダメージを受ける。これはストレス学の定説だが、今回の新型コロナウイルス騒動でも全く同じ現象が起こっている」と書いたのも、リソースの欠損の根深さを意味している。

 既にお気づきの通り、「カネ」の欠損状態が、さまざまなその他のリソースを複合的に欠損させる。非正規やシングルマザーなど、所得が低い人たちはもともとリソースが欠損しているのに、新型コロナ騒動で経済的にも窮地に追いやられている。

 そして、その影響は子供にも伝播する。

 貧困の最大の問題は「普通だったら経験できることができない」という、機会の略奪だが、とりわけ幼少期の「機会奪略」はその後の人生の選択にも大きな影響を与え、リソースの欠損に直につながっていく。

 教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出をつくる機会、親と接する機会……etc.etc。

 私たちは幼少期にこういったさまざまな経験を積む中で、80年以上の人生を生き抜く「リソース」を獲得する。ところが低所得世帯の子供はそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、「機会略奪のスパイラル」に入り込み、「貧困の連鎖」が拡大するのだ。