
慢性的なストレスにさいなまれている人は、突発的なストレスに襲われたときにダイレクトにダメージを受ける。これはストレス学の定説だが、今回の新型コロナウイルス騒動でも全く同じ現象が起こっている。
これまで、だましだましやり過ごしてきた問題が一気に吹き出し、断崖に追いつめられていた人たちが今、落ちてしまいそうになっているのだ。
その1つが介護だ。
「今回の新型コロナ騒動で介護業界は完全に崩壊するんじゃないかって、心配しています。介護士にも感染が見つかっていますが、そうなることはもっと前から分かっていた。介護の仕事ってすべてが濃厚接触ですからね。なぜ、もっと早く手を打てなかったのか。悔しくて。ホント、悔しいです。
特に訪問介護の現場は慢性的なヘルパー不足で、倒産と背中合わせです。 急場をしのげる余力は1ミリもありません。自治体は『知恵を出してどうにか乗り切ってほしい』っていうけど、人もカネもない現場に、どうしろというのか?
訪問介護の利用者には一人暮らしで、家族に頼ることができない人も多い。ヘルパーとの信頼関係で、訪問介護は成立しているんです。人が足りないからって、他の人に入ってもらいましょうとは軽々に言えません。それこそ、もし、そんなことして感染が拡大したり、何かトラブルが起きたりしたら取り返しがつかない。介護は……命の現場なんです。
悲しいけれど、どうなってもいいって言われてるようで。なんとかするしかないという気持ちと、どうにもならないというあきらめの中で、運営している施設は多いと思います」
後手に回った介護分野への対応
こう話すのは、30年近く介護現場で働く知人だ。
数日前に介護士の人に感染が確認され、「ついに来てしまったか」と不安になり連絡したところ、忙しい中でインタビューに応じてくれた。
「みんな自分が感染源になるんじゃないかと、恐れて、神経をとがらせてきた。マスクや消毒液の在庫が尽きそうなことも分かっていたが、限られた状況でスタッフはがんばっていたのに……」と、やりきれない心情をうちあけた。
報じられている通り、愛知県では11日までに2カ所のデイサービス事業所で集団感染が確認され、感染者数は45人に上っている。名古屋市では感染者が出た施設を含め、市内の計126施設に7日から2週間の休業を要請した。
しかし、「デイサービスは利用者にとって命綱だ。休業すれば受け皿がない」と、利用者の受け入れを続けている施設は多い。「介護は命の現場」という言葉どおり、感染の不安を抱えながらも“断崖”で耐えているのだ。
中国で感染が拡大した当初から、高齢者ほど重症化リスクが高いことが分かっていたのに、高齢者に対する感染拡大防止策は全くといっていいほど手を付けられていなかった。介護施設への具体的な対応策は示されなかったし、マスクなどの確保も、すべて後手だった。
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