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 リスクコミュニケーションでは、専門家が意思決定の裁量を持ち、情報の一元化を徹底することが極めて重要となる。例えば、リスクコミュニケーション先進国である米国では、新型インフルエンザが大流行した際、米疾病管理予防センター(CDC) がリーダーシップを執り、情報提供窓口を一元化した。政府や自治体、企業や学校などもCDCを一次情報源とした。

 CDCは、感染者数、感染源、治療法などどんどん更新される情報を、逐一国民に発信し、その際も国民の生活目線を忘れず、迅速かつ分かりやすさを徹底したと報告されている。

 例えば、小学校や保育施設など施設別の行動指針やハイリスク者に関する情報、乳児の保護者向けの情報や、夏休み前にはキャンプ時の感染予防策など、豊富な切り口で情報提供した。CDCのホームページを見るだけで、幅広い情報ニーズを満たすことができるようになっていたそうだ(「新型インフルエンザのリスク認知とリスクコミュニケーションのあり方に関する調査研究」より)。

 さらに、CDCは暫定的な行動指針やガイドラインなどもリアルタイムで公表、都度更新し修正を加えるなど、まめな情報発信に努めた。

 徹底的に正確な情報提供を続けるからこそ、国民の情報への信頼は高まる。生活者目線の情報だからこそ、誰もが「自分の身に何が起こるか? 何に備えておけばいいか? 必要なものは何か? 困ることは何か?」と考え、具体的な行動につなげることができる。

 そのような過程の先に、オバマ大統領の「国家非常事態宣言」があり、その後もきちんとそれまでのプロセスと決定を振り返り、検証も行うなど、最後まで双方向の基本原則を貫いたという。

メディアは一次情報と連携すべし

 リスクコミュニケーションでは、二次発信となるメディアの役割も極めて大きい。にわか専門家や、コメンテーターなどが、国民の不安をかき立てるようなことがないように、一次情報発信者(専門家チーム)と密接に連携する。メディアの記者たちには、専門家や政府などが行う記者会見で、適切かつ意義ある質問ができるだけの最低限の知識と生活者目線を持つことが求められる。そのためには専門家たちがリーフレットを配ったり、ミニ講習会を開くなど、マメに「汗をかく」必要もある。

 当然ながら政府の役割と責任は極めて大きく、国民に発信するときには、「何を根拠に、そういった決定がなされたのか?」を、一次情報に基づき、きちんと説明し、記者からの質問にもきちんと対応し、双方向の原則を守らなくてはならない。

 日本では、リスクコミュニケーションの重要性は「厚生労働省健康危機管理基本指針」にまとめられているし、新型インフルエンザが流行したときの経験を踏まえたリスクコミュニケーションの課題は、研究者がいくつもの調査報告書にまとめている。

 一次情報の窓口となった厚労省からのリアルタイム発信が乏しかった、WHOの情報と政府の対応の関係の食い違いが不安と不信感を高めた、マスコミの過熱した報道姿勢など、いくつもの問題が指摘されているのだ。