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(写真:Shutterstock)

 「社会生活や人間関係を汚染するものこそが、新型コロナウイルスがもたらす最大の脅威だ」──。

 これはSNSでも話題になった、イタリアの高校のドメニコ・スキラーチェ校長が生徒たちに送ったメッセージの一部だ。

 校長先生は、「外国人に対する恐怖やデマ、ばかげた治療法。ペストがイタリアで大流行した17世紀の混乱の様子は、まるで今日の新聞から出てきたようだ」と、1630年にミラノを襲ったペストの流行について書かれた『許嫁(いいなずけ)』を紹介。「感染拡大のスピードは、昔は少しゆっくりだったかもしれないが同じで、それを止める壁は存在しない。目に見えない敵からの脅威を感じているときは、仲間なのに潜在的な侵略者だと見なしてしまう危険がある」と説いた。

 ふむ。まるで今の日本だ……。

 車内で咳(せき)をしただけで怒号が飛び、ドラッグストアの前ではマスク購入を巡る取っ組み合いのけんかが起きている。私の友人は電車の中で咳をしたら「周りからどんどん人がいなくなり、殺されそうな目で見られた」と嘆いていた(彼女は難病があり乾燥した空間に行くと咳が出るので、常にマスクを着用している)。

 中華街には外国人を罵倒するビラが送りつけられ、コンビニのトイレではトイレットペーパーに鎖が付けられていたところも。なるほど、盗難防止ということか。

生かされない過去の経験

 未知なるものに不安を感じるのは、人として当然の反応である。人類の歴史は感染症との戦いであり、感染症流行に伴う混乱は、地震などの自然災害と同様、社会心理学の分野で研究が蓄積されてきた。しかし、悲しいかな、研究者たちの思いとは裏腹に未知なるものへの“常軌を逸した言動”は繰り返されている。

 緊急事態が起こる度に総括され、法律や制度を整備しても、人の心をコントロールするのは至難の業。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、09年の新型インフルエンザと、人々の不安感や言動なども研究者たちが検証し、リスクコミュニケーションの重要性が指摘されてきたのに、今の政府の対応には「り」の字のかけらもない(後ほど詳細は説明する)。

 そこで今回はいつもとちょっとばかりテーマを変えて、「人の愚かさ」について、過去を振り返ってあれこれ考える。

 正直に打ち明けると、私は今のギスギスした空気と、トンチンカンな政治決断やら根拠なき噂話やらにへきえきし、「コロナ関連死」なるものが出るのではないかと危惧している。既存の薬が効いた、検査時間を半分にできるウイルス検査用の試薬開発に着手したなど、企業に勤める研究者たちの努力で前向きになれるニュースも出てきたけど、やはり過去に学び、今を考え、明日からでもできることを模索したいし、少々落ち着きを取り戻したい。

 というわけで、感染症流行時の心理反応や効果的なコミュニケーションに関するいくつもの論文を参考にしながら書き進めるので、みなさまもお付き合いください。