高校に行かず、高卒認定(高等学校卒業程度認定試験)を受けて大学を受験する子供はどうなる?
 高卒認定を受ける子供の「主体性」はかなり高いが、それはあくまでも主体性であり、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」じゃないということなのだろうか?

 極論をいえば、マークシートに必要な暗記だって、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」になりやしないか?「主体性」の評価と「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価の違いは一体ナニ??

 それに、eポートフォリオを調査書にするようになれば、活動の真偽を先生はいちいち確認しなければならない。それはかなり膨大な作業だし、「〇〇をやったって記録されているけど……ホントに? これって結構大変よね?」なんて先生が確認しようものなら、「僕のことを先生は信じてないの?」と生徒が不信感を抱く心配もある。

 もし、仮にその作業を軽減するために、その都度「証明書を取っておく」なんて事態になろうものなら、ボランティア参加証明書、海外渡航証明書、表彰証明書などなど、「大学に入りたい!」という気持ちにつけ込んだ悪徳商法が出てくる可能性も否定できない。

 夏休みの宿題までSNS(交流サイト)で売買される時代だ。膨大なカネが動く入試市場に、悪知恵を使って参入したがる輩(やから)がいたとしても不思議じゃない。

 しかも、しかも、だ。先の「各大学の入学者選抜改革における課題の調査分析及び分析結果をふまえた改革の促進方策に関する調査研究と『主体性等』をより適切に評価する面接や書類審査等教科・科目によらない評価手法の調査研究」というややこしい報告書によれば、全国604の大学にアンケート調査を行ったところ、

  • 「主体性等」を評価できている入学試験の方式は、「推薦入試」41%、「AO入試」30%であり、「一般入学試験」は 11%と低い水準
  • 「主体性等」の評価基準を「定めている」44%、「定めていない」42%。

 評価基準を「定めている」とした大学でも、「何をもって主体性とするのか」といった悩みを持ちつつ、面接、小論文などの評価にあたっているという回答が散見された。

曖昧な「主体性」の定義に教育現場は混乱

 つまり、現場の先生たち自体が「測るのが難しい」と言っているものを測ろうとした結果たどり着いたのが、留学やら資格取得やら、カネがないとできない経験を評価する仕組みだ。

 本来、学校とは「平等をつくるための装置」なのに、そこには組み込まれない活動を評価することは、国が「教育の平等」を放棄するようなもの。安倍晋三政権が進めようとしている大学入試改革は、貧困の連鎖を拡大させる改革でしかない。

 貧困の最大の問題は「機会の略奪」である。

 教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出をつくる機会、親と接する機会……といった「普通だったら経験できることができない」のが貧困である。

 とりわけ幼少期の「機会奪略」はその後の人生の選択にも大きな影響を与える。私たちは幼少期にこういったさまざまな経験を積む中で、80年以上の人生を生き抜く「リソース」を獲得する。ところが低所得世帯の子供はそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会などについて、「機会略奪のスパイラル」に入り込む。

 その機会略奪のスパイラルを、唯一阻むことができるのが、本来、学校の役目だった。学校では親の社会経済的地位に関係なく、同じ教科書で同じ教育を受け、同じ制服を着て登校し、同じ食事を食べ、同じ行事に参加できる。それはまさに「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」というフレーズの、“多様な(家庭)の人々”との協働作業だ。

 だが、その「平等をつくるための装置」も中学まででジ・エンド。高校になると間接的に親の社会的経済的地位でふるい分けられる。子供の学力と親の社会経済的地位は関係性が深いため、学校の学力レベル=親の社会経済的地位となってしまうのだ。

 それでも何とかして大学に行きたいと思う子供は、主体的に勉強をし、高卒認定を受けるなどして、大学受験することができた。いじめなどで学校に行けなくなり「学ぶ機会」を略奪された子供も、主体的に勉強をし、高卒認定を受けるなどすれば大学受験できた。

 大学受験というのは、ふるい分けを再び、リセットできる大きな機会だった。その機会を「子供たちの未来」を考える立場の人たちが、奪おうとしているとしか私には思えない。
家庭の経済格差が教育格差につながっていることは、さまざまな調査が明らかにしているが、これに拍車をかけるような制度を文科省が進めてどうするというのだ。

 「身の丈に合った教育を受ければいい」と、マジで思っているのだろうか。

 文科省はいい加減、大学教育の入り口対策に精を出すのをやめて、出口対策に邁進(まいしん)したほうがいい。

 大学は「入りはよいよい、出口は怖い」のほうが、お国が求める「カネのある家庭の子供たち」も必死で、主体性を持って多様な人々と協働して学んでいくと思いますよ。

他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


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