
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授の大隅良典博士が、先週、記者会見を開き、日本の高学歴軽視問題への懸念を訴えた。
大隈博士は「大学で博士号を取得する学生が減っていて、日本の科学技術力が低下する要因になっている。研究のすそ野を広げるためにも博士課程に進む人が多くなることが大切」と指摘した。大隈博士が設立した財団「大隅基礎科学創成財団」が、協力企業11社を対象にアンケート調査を行ったところ「博士号を取得した学生の採用を増やしたいと考えている会社が多かった。グローバル化の中で博士号を持った社員の力を借りないと将来がないと考える企業が増えている」という。
博士号の力か……。
大隈博士のおっしゃっていることはごもっともだし、「採用を増やしたい」という企業が増えているという調査結果に期待したい気持ちもある。
だが、残念ながら私の周りには「博士号はいらない」と考える企業が多く、博士課程に進学したがらない学生が多い。企業だけではなく大学や研究所にも空席がなく、40歳近くになっても非常勤講師を掛け持ちしていたり、「何のために頑張って研究してきたのか……」と後悔する人もいる。
そもそも日本の低学歴化は10年以上前から問題になっているのに全くと言っていいほど改善されていないどころか、むしろ悪化し続けている。
なぜ、企業は「グローバル化で博士社員の力が必要」と考えているのだろうか? 「博士号」に企業は何を期待しているのだろうか?
問題が浮き彫りになりながらも実効性ある手立てが進まないのは、「博士号の力」がきちんと共有されていないことが原因だと個人的には考えている。
というわけで、今回は「高学歴」についてあれこれ考えてみようと思う。
博士号が無駄になる国ニッポン
最初に「日本、世界に取り残されてない? 大丈夫?」という方向の議論のきっかけになった記事を紹介する。タイトルは「The PhD factory」。2011年4月に科学誌Natureに掲載された、日本にも7年ほど住んだ経験のあるジャーナリストたちによるエッセーである。
記事によれば、
- 科学分野の博士号授与数の年間総数は、1998年から2008年までに40%近く増え、ハイペースで大量生産されている(OECD加盟国)、
- その一方で、世界のかなりの国と地域では、博士号の資格を十分に活用する機会に恵まれず、博士号が無駄になる恐れが生じている、とのこと。
で、博士号が無駄になりそうな国の筆頭に挙げられたのが……、
“Of all the countries in which to graduate with a science PhD, Japan is arguably one of the worst.”
(河合訳:「理系大学院の博士号取得者の進路を各国で比較した場合、日本が最悪国の1つであることはほぼ間違いない」)。
そう。日本だったのである。
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