
このところどこにいっても、「定年」が話題となる。
「定年って、本当になくなるんですかね」
「定年とか、もう時代に合わないですよね」
「定年がなくなることはないよ。賃金を下げるきっかけがなくなるから」といった一般論的な話から、
「うちの会社では定年がなくなるらしいって話が出てるんですが、『いつまで働きゃいいんだ』とか反対する輩(やから)がいる。やめることさえ自分で決められないかと思うと悲しくなります」
「定年なくすとかやめてほしい。そんなことされたら妻にずっと働け!とか言われそう……」などといった、「うちの会社」「うちの家庭」の話まで。
さらには……
「うちの会社で定年がなくなると聞いたので、安心して転職活動をしていたら、人事に呼ばれて、『早期退職するか、会社が紹介する関連会社に行くか決めてほしい』と迫られた」(男性)
「え? 転職活動していることが問題なんですか?」(河合)
「いや、そのことは知らないと思います。定年はなくすけど、会社がいらない人ははじくってことなんでしょう。会社の外の状況についても、社内の自分の立場についても、完全に見誤りました。自分の認識の甘さが嫌になります」(男性)
早期退職やフリーランス化が推奨される
定年──。かつては現役から老後への切り替えの儀式だったものが、役職定年、定年後雇用延長など、コストの高い会社員の賃金を下げる節目になった。そして今、定年という言葉が消滅するかも? という時代に突入している。
ご存じのとおり、今国会には、企業に70歳までの就業機会確保への努力義務を課す「高年齢者雇用安定法」の改正案が提出される。その一方で、将来的には「努力義務→義務化」となることを見込んで「今のうちに切っちゃえ~!」と40代後半以上をターゲットにした早期退職の募集・実施は増える一方だ。
東京商工リサーチが1月15日に発表した調査結果によると、2019年(1~12月)に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は計1万1351人。過去5年間では最多で、最も少なかった18年と比べると、社数、人数ともに約3倍だった。
実施企業のうち6割は業績不振によるリストラだが、業績が良い中での先行型も目立つ。「製薬」分野の企業は4社中3社が直近の決算が増収増益だった。今年も既に9社が実施を公表し(対象人数は計1550人)、9社のうち直近の決算で最終赤字、減収減益となったのはそれぞれ1社。他の7社は業績が堅調な業界大手が占める。
義務化に加え、定年後雇用延長で賃金が激減するのを不服とする裁判も増えているので、今後もこの動きに拍車がかかる可能性は高い。
いずれにせよ、かつて65歳までの雇用が義務化されたときに、低賃金で雇用延長に応じる仕組みを導入する企業が多かったように、今後もあの手この手で企業はコスト負担がかからない方法を繰り出すはずだ。
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