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(写真:Shutterstock)

 なんとも痛ましい事件が、また起きてしまった。

 88歳の母親が寝たきり状態の70歳の娘を刃物で刺し、無理心中を図った。パーキンソン病の娘を母親が介護する「逆・老老介護」。88歳の母親は、70歳の娘の車いすを押し、おむつ替えや着替えなどの身の回りの世話をしていた。

 親子は「サービス付き高齢者向け住宅」で暮らし、母親は周囲に「このまま介護を続けていくにはどうしたらいいのか。お金も大丈夫かしら」と、事件の1カ月ほど前から、漏らすようになったと報じられている。

 親子が暮らしていたサービス付き高齢者向け住宅は、「自立して生活できる高齢者」が安心して暮らせることを目的に、「地域包括ケアシステム」拡充の施策として2011年に創設された。立地場所や、サービス内容によって家賃は大きく異なり5万~30万円超。安否確認や生活相談はあるけど、介護サービスを受けるには外部の在宅介護サービスを利用する必要がある。

 ただ、24時間介護してくれる公共の特別養護老人ホームが、常に満員で入れない状況があるため、手厚い介護が必要な高齢者が、低家賃のサービス付き高齢者向け住宅に入居する場合がある。

 88歳の親子がどういった経緯で高齢者向け住宅に住んでいたかは不明だが、サービス付き高齢者向け住宅では2015年1月から1年半の間に、死亡や骨折など少なくとも3000件以上の事故が報告されている。

超高齢化社会が進み複雑化する介護問題

 また、「逆・老老介護」という言葉について、介護関係者に聞いたところ「ここ最近使うことが増えた」とのこと。引きこもり状態にある50代が80代の親とともに暮らす「8050問題」が注目されているが、「引きこもりの子供が病気がちだったり、体が弱かったりすることが少なくない。80歳を超えた親が、50歳の子供の身の回りの世話をしているケースはある」と話してくれた。

 「逆・老老介護」を夫婦間の介護について使う場合もあり、「90歳を過ぎた高齢者が80歳前後の配偶者を介護する例はこの数年で急激に増えた」(介護関係者)。

 厚生労働省の国民生活基礎調査でも、同居の主な介護者が80歳以上というケースは、2001年の6%から20016年は16%に増加している。2018年に公開されて話題となったドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」でも、認知症の90歳の妻を介護するのは、98歳の夫だった。

 寿命が延び、90歳を過ぎても元気な高齢者が珍しくない一方で、パーキンソン病は50歳過ぎ、アルツハイマー病では65歳を過ぎると発症する人が増える。超高齢化社会では介護問題は喫緊の課題なのに、問題解決する間もなく新たな問題が生まれ、状況はさらに複雑になっている。