医師からは休職を勧められ、彼は半年間休職する。のち、医師のサポートを得ながら復職に成功。「メンタル不全者をケアする制度がかなり整っていて、周りの社員や上司の理解もあった。万全ではなかったけど、無理さえしなければ働ける状態まで回復した」(本人談)。

 ところが、その2年後にリーマン・ショックの影響で、会社が大規模なリストラを敢行することになった。

 残念な話ではあるが、最初にターゲットになったのが50代と病気などの履歴がある社員だった。「人事に真っ先に呼ばれて、目の前が真っ暗になった」彼は、うつが再発。それでも稼がなくてはならないので、雇ってくれる会社を転々としたのである。

 転職を繰り返さざるを得なかったのは、ひとえに心身が万全じゃなかったからだ。

 新しい環境にうまく適応できなかったり、うまく適応できても少しでも頑張りすぎると遅刻してしまったり、仕事でミスをしてしまったり。「続けて働きたいけど、辞めるしかない」──。そんな状態の繰り返しだった。

 そんなときにうつ病は障害者手帳をもらえることを知り、医師に相談したところ、「賃金は下がるが、障害者雇用枠で入った方が安定して働ける」と賛成され、やっと安定した仕事に就けるようになった。

「障害者枠」雇用の厳しい実態

 ただし、障害者枠にはさまざまな問題があった。

 会社により扱い方もさまざまで、障害者雇用に対する補助金目当ての会社では、常に厄介者扱いでパワハラは日常茶飯事。仕事もさせてもらえないし、賃金は最低レベル。普通の人に比べれば体調は不安定だが、それ以外は問題ない彼にとって、それは苦痛だった。賃金の安さは想像以上で、年老いた母親との生活は苦しかった。「世間では障害者雇用に積極的に取り組んでいると評価されている企業でも、障害者は隔離され、実際の仕事はほとんどなかった」(本人談)。

 彼はまたもや転職を繰り返すはめになり、3社目でやっとそれなりに満足できる職場にたどり着いた。

 私が彼にお会いしたのはその会社で働いていた時期で、今から2年前だ。

 彼はどこにでもいるビジネスマンで、私は最初彼が「障害者」だとは気づかなかった。インタビューで彼から「障害者手帳」という言葉を聞くまで、全くわからなかったのである。

 それまでもうつを経験した人には何人もお会いしたことがあったし、彼と同じように障害者手帳を持っていた人もいた。だが、彼は「バリバリ働くビジネスマン」という印象が強く、驚いた、というのが正直なところだった。

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