「過去最低」が伝えられた数日後にも、壁を感じる由々しき出来事があった。
ジャーナリストの女性が、元TBS記者から性行為を強要されたとして損害賠償を求めた民事裁判で勝訴し、判決後に行われた男性の記者会見での耳を疑うような発言である。
「伊藤さん(民事裁判を起こした女性ジャーナリスト)のように必要のない嘘、本質的な嘘をつく人が性犯罪被害者だと言って嘘の主張で出てきたことによって、私のところにも、性被害を受けたんですという方から連絡があり、お目にかかった方もおります。本当に性被害に遭った方は『伊藤さんが本当のことを言っていない。こういう記者会見の場で笑ったり、上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることは絶対にない』と証言しているんですね。今、伊藤さんは世界中で露出をして本当の性被害者として扱われている。本当の性被害にあった方が、嘘つきだと言って出られなくなるのならば、残念だなと思います」(12月18日の記者会見での元TBS記者・山口敬之氏の発言)
さすがにこの発言には男性たちも憤っていたけど、メディアの扱いは冷淡だった。
「勝訴」という事実や男性が政権に近い存在ということは伝えていたけど、この耳を疑うような言葉はスルー。真実を伝えるべき記者をなりわいにしていた人物が、他人の言葉を借りてあたかもそれが「真実」であるかのごとくのうのうと言ってのけたことを大手メディアは糾弾しなかった。
この発言、すなわち「笑ったり、上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることは絶対にない」という発言を、メディアが問題視し、取り上げることは、男が刑事裁判で不起訴処分になっているとか、ことの真相がどうだとかいう話とは別次元の話だ。
つまり、元記者はジャーナリストの女性を批判する材料に、性被害に遭ったとされる人が言っていたことという責任転嫁のもと、「一般論としての性被害者のあるべき姿」を公衆の面前で堂々と言ってのけた。
性被害に遭った人は、人知れず一人で悩み、ずっと下を向いて、泣き続けるのが当たり前だ、と。ちょっとでも笑ったり、ちょっとでも優しい顔をしたり、ちょっとでも凛(りん)とした表情をする人は、性被害者じゃない、嘘つきだ、と。
Powered by リゾーム?