1. 隣の課の社員が30分以上立たされて叱責を受けている
  2. 上司が部下に「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」と問う
  3. 一歩間違えば命に関わる現場で、監督者が部下に厳しく接する
  4. 上司が大きな声で度々指導する
  5. 上司から業務の出来具合を否定された

 さて、これらはパワハラなのか? それともパワハラには当たらないのだろうか?

 実はこれ、独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施したハラスメントのヒアリング調査で、「パワハラと判断していいかどうか難しかった事例」として挙げられた一部だ。

 おのおのについて会社側の見解は……、

  1. 叱責された本人から叱責は妥当と返答があり、適正な指導の範囲と判断
  2. 部下に考えさせる指導方法としてやっていることだが、部下を追い詰めてしまうことがある
  3. 被害者が加害者を処罰しないでほしいという場合があり、本人もパワハラかどうか分からなくなっている
  4. 受け手はパワハラととっていたが、第三者にはそうは思えないという意見が相次いだ
  5. 相談者には「私は頑張っている」「自分がやりたいのはそんなことじゃない」という思いがありパワハラととるようだが、上司は期待を込めてアドバイスしているだけだった

 ……といった具合に白黒つけるのが難しく、パワハラ認定することより社内での解決を優先したという。

 6月7日に公表されたこの調査結果が今、注目を集めているのは、厚生労働省の指針が物議をかもしているためだ。10月21日、厚労省は「パワーハラスメントを防止するために企業に求める指針の素案」を示した。が、その内容に専門家から疑問の声が噴出したのである(「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講すべき措置等に関する 指針の素案」)。

業務上必要ならなんでもアリか?

 問題視されているのが、以下のアンダーラインの部分だ(河合が書き込みました)。

 2 職場におけるパワーハラスメントの内容
職場におけるパワーハラスメント:職場において行われる

  1. 優越的な関係を背景とした言動であって、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者の就業環境が害されるものであり、1から3までの要素をすべて満たすもの。

 なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。

 つまり、「経営上の理由」と企業が主張すれば、いかなる行為も許されてしまう可能性が出て来てしまったのだ。

 それだけではない。指針ではパワハラの定義である上記の(1)~(3)を具体的に説明しているのだが、(3)の「就業環境を害すること」の欄には、次の一文もある(アンダーラインは河合による)。

 この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当。

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