10年ほど前になるが、清宮克幸氏(現日本ラグビーフットボール協会副会長)をインタビューさせていただいたことがあった。

 数々の金字塔を打ち立ててきた清宮氏だが、そのきっかけは早稲田からサントリーに入り、キャプテン失格になったことだと話してくれた。

 清宮氏はサントリーに入社後、「こんな練習をやっていたら日本一なんかなれない。俺にキャプテンをやらせろ!」と25歳のときにキャプテンに就任する。

 ところが出る試合出る試合負けばかり。27歳までキャプテンをやり続けたが一度も勝てなかった。で、キャプテンをやめた翌年、全国社会人ラグビーでサントリーは優勝する。

 「やっと俺が間違っていた、俺に足りないものがあったと受け入れられました。結局、『俺が俺が』ってとにかく独りよがりだった。なんでも自分でできると過信していたんです。チームは組織。組織が機能するチームにしないとダメ。自分でできることは限界があることに気づいたんです」(清宮氏)。

 どんなにリーダーが優秀でも、リーダーシップを発揮するにはフォロワーであるメンバーたちの力が不可欠。チームにはチームワークを発揮させる仕組みが必要であり、チームの力はリーダーの価値観がクモの巣のようにチームに張り巡らされ、クモの巣から誰一人として漏れない組織がつくられて発揮できる。

真の競争力は個々が信頼されるチームから生まれる

 どんなに能力があろうとも、周囲と「いい関係」がない限り、その能力が生かされることはない。

 人から信頼されている、愛されている、見守られている、認められていると認識できたとき初めて、人は安心して目の前の難題に全力で取り組むことができる。自らの行動に責任を持ち、自分の力を極限まで引き出す胆力が育まれる。

 ラグビー日本代表はそんな人の本質を教えてくれたのだ。

 そういえば、かの松下幸之助氏は、「和の精神とは、人と対立することを避けて、表面的に仲良くやっていくという意味での和ではありません。私たちが考える和の精神とは、まず皆が自由に正直に話し合い、お互いの意見や価値観に違いがあることを認め、その違いを尊重したうえで、共通の目標のために協力し合うという、相違や対立の存在を前提とする和なのです」と説いたが、これも真のチーム力の言葉ではないか。

 最後に……。今回の日本代表の躍進をさらに理解するためにオススメの映画を2つ。「ブライトンミラクル」と「インビクタス」。映画界の回し者ではありませんが、学びが多い映画なのでこの機会にぜひ。

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、
日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が
原因だった? “ジジイの壁”第2弾。
・自分の仕事より、他人を落とすことばかりに熱心
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そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。
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