チームワークやチーム力が、社会学や組織心理学で礼賛されるようになったのは1970年代後半以降とされている。
その火つけ役の一つが、日本のサラリーマンだ。
敗戦国でありながら、次々と「メイド・イン・ジャパン」の技を創出。世界の人々を驚かせた日本企業はどんどん成長し、日本は経済大国の一つになった。
それまでは研究者の関心はもっぱら個人主義、独立志向が高い米国だった。ところが、欧米のストレス研究者たちは「なぜ、日本のサラリーマンはあんなに元気なのか? なぜ、あんな技を次々と生み出しているのか?」と日本企業への関心を高めた。
その一人が日本企業を支える“経営の三種の神器”として、「終身雇用、年功制、社内組合」を挙げた米国の経営学者ジェームズ・C・アベグレンだ。終身雇用や年功制は、今では諸悪の根源のごとく言われているけど、実はこれらがすべての人間に宿る「たくましさ」を引き出す経営手法だとしたのである。
アベグレン博士が日本型経営のプラス面を世界に発信した背景には、人をコストと考え、レイオフを当たり前のように行っていた競争第一主義の米国企業に「本当にそれでいいのか? もっと人の強みを引き出す経営手法があるのではないか?」と警鐘を鳴らすことが目的だったとされている。
米国流雇用の見直しから始まったチームワーク研究
いずれにせよ「終身雇用」のもともとの言葉は「Lifetime Commitment」。終身雇用から受けるイメージとは、ちょっとばかり異なる。「雇用」だとパワーが圧倒的に雇う側に委ねられている感じだが、「Lifetime commitment」だと「あなたの人生に関わらせてね」といった優しいニュアンスがある。
つまるところ、アベグレンは「企業」の本質は単なる市場労働の場ではなく、社会組織であり、リソースであり、そこで働く人たちが安全に暮らせるようにすることが最大の目的だと説いたのである。
もっとも米国ではそれからも働く人を非人格化した経営手法を続ける企業が後を絶たなかったわけだが、確実に「チームワーク」に着目する研究者は増えた。社会学や政治学などの分野で研究されていたソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という概念が、企業経営で注目されるようになったのもその延長線上にある。
企業のソーシャル・キャピタルの重要性を説いたドン・コーエンとローレンス・プルサックによる「IN GOOD COMPANY」(邦題『人と人の「つながり」に投資する企業』)は日本の大部屋主義や給湯室など、日本企業にかつて存在した「人がつながる空間」に言及し、さらには来るべきSNS社会での働き方にまで思慮を巡らせた名著だ。
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