また、雇用の流動性が高いというイメージのある米国も、近年は転職率が低下しているという指摘がある。企業側が長期雇用の利点を生かそうとしている動きに加え、IT技術の進歩が速いために転職する場合に「今のスキルが陳腐化している」という現実があり、働く人にとっても転職の利点が激減しているのだ。
そもそも欧州の国々では「労働者の人権を守る」哲学が浸透しているので、解雇するには正当な理由をかなり厳しく要求する法制が細かく決められている。さらに、こちら(「正社員「逆ギレ」も、非正規の待遇格差が招く荒れる職場」)でも書いた通り、欧州は原則的に有期雇用は禁止だ。
有期雇用にできる場合の制約を詳細に決めていて、期間も限られている。日本のように、非正規で何年も雇い続けることができない上に、非正規は「企業が必要な時だけ雇用できる」というメリットを企業に与えているとの認識から、非正規雇用には不安定雇用手当があり、正社員より1割程度高い賃金を支払うのが“常識”である。
OECDが日本に改善を求めているのも、実はこの点である。日本では「正社員は保護されすぎ」という意見が一般的だが、そうではなく非正規を都合よく使っていることを問題視しているのだ。
日本の雇用流動性は必ずしも低いわけではない
では、次に雇用の流動性についてみてみよう。雇用の流動性が高ければ、次の職場に簡単に移動できるため失業期間が短くなるはずである。ところがここでも驚く結果が得られている(『データブック国際労働比較2018』独立行政法人 労働政策研究・研修機構)。
ご覧の通り、OECDのデータでは6カ月以上1年未満でほとんど差がない。この傾向はその他の失業率を示したデータでも同様に認められている。一方、1年以上の長期失業率は日本39.5%に対し、デンマーク22.5%、オランダ42.7%、スウェーデン16.8%、米国13.3%となっている。
「ほらね! やっぱり日本は流動性が低いから長期失業の人が多い!」と解釈するのは短絡的だ。失業期間や失業者の定義は国によって違うし、景気動向や年齢構成によっても異なる。日本では女性が育児のために一時的に労働市場から離れる割合が高いのと、高齢化の影響もある。日本の高齢者が欧米に比べ70歳まで働きたい、働かざるを得ない状況にあることは、周知の事実だ。
もちろん失業率のデータだけで一概に結論づけることはできないけど、少なくとも日本の流動性が低いと言い切れる数字ではなく、欧州の国々と比較しても、日本の労働市場のパフォーマンスは必ずしも悪くないのである。
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