私はこれまで何度も、「追い出し部屋もやむなし。だって、日本ではクビにしたくてもできない」「日本の正社員ほど守られてる会社員はいない」という意見を耳にしてきた。

 そして、二言目には「終身雇用が悪い」「解雇規制が厳しすぎる」「流動性がない」とのたまい、解雇規制を緩和すべし、流動性を高めるのが先決、そうしないと経済成長はない!と鼻息を荒くする人たちに何度も会った。

 解雇規制が厳しい、解雇のハードルが高い、といわれる国で、これだけの人たちが「希望退職」という美しい言葉の名のもとに仕事を打ち切られている。しかも、それが景気や企業の業績に関係なく進められているのだ。

 そこで今回は、

  • 「解雇のハードルが高い」は本当か?
  • 雇用の流動性は本当に低いのか?
  • 流動性が高まれば経済成長するのか?

 という点を様々なデータから整理した上で、「リストラの先」にあるものについて考えてみる。これらの“当たり前”とされていることの真偽を確かめることで、隠されている本当の問題に向き合おうと思っている次第だ。

「日本は解雇のハードルが高い」は間違い

 まず、解雇のハードルの高さについて、経済協力開発機構(OECD)で使われるEPL指標(Employment Protection Legislation Indicators)で、欧米諸国と比べてみよう。EPL 指標は、雇用保護法制の強さを指数化したもので、指数が高ければ高いほど、規制が厳しいことを意味する。

 欧州、特にオランダ、デンマーク、スウェーデンなどでは、1970年代から流動的な労働市場政策を進めてきた。一方、ドイツは欧州の中でも比較的解雇規制が厳しいとされている。なので、ここではこれら4つの国に米国を加えて比較してみる(OECD Employment Outlook2013より)。

 正規雇用の場合、日本のEPLは2.09。これはOECDの平均2.29を下回り、雇用保護が低い=解雇しやすいグループに入る。一方、米国は1.17とかなり低い。

 一方、デンマーク2.32、スウェーデン2.52、オランダ2.94といった国々では、いずれも日本を上回り、解雇規制が厳しいドイツ2.98とさほど差はない。

 では、非正規雇用ではどうか。

 OECD平均が2.08なのに対し、日本は1.25。スウェーデン1.17 、オランダ1.17、ドイツ1.75、デンマーク1.79、米国0.33だ。

 つまり、「日本は終身雇用制度があるから、クビにできないから追い出し部屋やむなし」「解雇規制が厳しいから希望退職で圧力をかけるしかない」というのは間違い。EPLで比較する限り、正規雇用・非正規雇用とも日本はどちらかといえば解雇しやすい国に分類される。解雇への制約の存在を「日本型雇用システムの最大の特徴」と捉えるのは適切とはいえないのである。

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