彼女の職場は転勤が多かったため、出産を機に退職。その後は育児に専念していたが、転勤問題が取り上げられるようになり、人事部のかつての同僚から「もし働く気があれば、契約社員として同じ部署で働けるけど?」と誘われ、昨年、会社に復帰した。正社員だった時と比べると、年収は4割ほど下がったという。
「以前は自分の仕事が終わればさっさと帰ってしまう契約社員たちを『楽でいいよなぁ』と、腹立たしく思ったことも正直ありました。でも、いざ自分が逆の立場になってみると、契約社員の方が真面目に働いていることに気づきました。
契約を更新してもらうためには、数字で成果を出さなければならない。残業代も出ませんし、限られた時間の中で効率よく仕事をこなさなければなりません。
正社員だった時の方が楽だったようにさえ思います。とりあえずは毎月の給料は出るし、ある程度結果を出せば、昇給も昇進もありますから」
「自分が契約社員になったら、正社員の怠慢と横柄な態度も目に付くようになってしまって。例えば、契約社員が事務書類の提出が遅れると、『意識が低い』だの『モチベーションが低い』だのマイナスの評価を受けます。ところが正社員だと『ちょっと忙しくて』という言い訳が通る。上司もそれを容認するんです。
それにね。正社員ってある程度までは横並びで昇進し、仕事も任されるようになるけど、契約社員は採用される時点で会社が求めるレベルに達しているので、その意味では契約社員の方が仕事ができます。おそらくそのことを正社員も肌で感じているのでしょう。特に私のように出戻りだと、年下の正社員はなめられたくないのか、ものすごい上から目線で対応してきます。
20代の正社員が顧客にてこずっていたのでアドバイスしたら、『正社員をなめるなよ!』と言われて驚きました。同期からは『非正規は気楽でいいよな?』と言われることもあります。給料が下がっても仕事が好きで、仕事をしたくて復帰したのに……。正社員ってそんなに偉いんでしょうか」
バカにされたくない“正社員”が契約社員を責める
この女性はインタビューに協力してくれた半年後に退職。メンタル不全に陥り、「やめる」という選択肢しかなかったという。
“正社員”から冒涜(ぼうとく)された経験を持つのは、この女性に限ったことではない。
「『パートなんていつだってクビにできるんだぞ』といつも言われるんです」と嘆く30代のパート社員もいたし、上司に意見したら『契約の身分で偉そうなこと言うな!』と恫喝(どうかつ)された40代の契約社員もいた。
人は自分が満たされないとき、他人に刃(やいば)を向けることがある。自分がバカにされたくないから、他人をバカにする。そんなとき、非正規という会社との契約形態が、かっこうのターゲットになることだってある。会社が待遇格差をつけたことで、正社員が妙な優越感を持つようになり、本来の性格までゆがめてしまったのだ。
揚げ句の果てに、何か事件が起こると「非正規」だの「契約社員」だのといった雇用形態の違いに原因があるかのように利用されるようになった。
繰り返すが、その“身分格差”を生んだのは、「非正規」という言葉ではなく、企業による待遇格差だ。働かせ方の問題である。「それぞれの課題に応じた施策を講ずるべきだ」(by 根本厚労相)などとまどろっこしいことを言っている場合ではないのではないか。
これまで、政府は基本的に「待遇格差」を禁じ、「正社員化」を進める法律を制定してきたのだから、法の抜け穴を巧妙に利用し、差別をしている企業を根こそぎ罰すればいい。それだけである程度非正規の問題は解決されるはずだ。
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