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 その結果、相手に伝えるための言葉を持たない、伝わったかどうかも気にならない子供が量産される。それは「受け止める力」の弱い子供が量産されることでもある。

 自分の伝えたいことを必死で伝える努力を経験して初めて、相手の言わんとしているメッセージを「受け止める力」が育まれるため、その経験がない若者には、そもそも上司の言っていることが伝わりづらい。

 さらに、SNSがメインのコミュニケーションツールとなり、顔と顔を突き合わせてのぶつかり合いが激減した。それはコミュニケーションの神髄が身体に染み込む経験の喪失である。

 Twitter、facebook、Instagram、YouTubeなどでは、いいねの数やツイートの数、フォロワーの数など他者評価が溢れるため他人の評価にも過敏になる。

 親にチヤホヤされて育ったのに、会社にチヤホヤしてくれる上司はいない。そのため余計に他者評価への関心が過剰になり、ささいなことで自信過剰になったり、自信喪失してしまったり。時には「本当の自分はこんなもんじゃない」という気持ちが、モンスターの芽になってしまうのだ。

 極め付きは大学のキャリア教育だ。ただ、この件については長くなるので簡単に要点だけを書くことにする。

 つまるところ、私はキャリア教育の必要性と重要性は重んじているが「自分に合った仕事を見つけましょう!」「自分の能力を発揮できるやりがいのある仕事を見つけましょう!」的教育は大反対。そういった誤ったキャリア教育が「自分のやりたいことしかやらない若者」を量産し、彼らの伸びしろを狭めているのではあるまいか。

モンスター化を防ぐには組織で腰を据えた教育を

 と、あれこれモンスター化の原因を書いてきたけど、モンスター部下を量産しないためには、彼らの教育には手間がかかるという共通理解のもと、彼らの力を生かす方法をとるしかない。

 具体的には、部下にチャレンジする機会を与え、役立つ情報をきちんと伝達し、彼らができている点、できていない点を客観的にフィードバックし、彼らの心を周りが支える仕組みが必要不可欠。「上司1人=点」に任せるのではなく、「組織=面」で彼らを教育する。

 繰り返すが、それはとてもとても手間がかかる作業だ。

 だが、いつの時代もそうであるように、上司や先輩の真摯な気持ちは必ずや部下の心に響く。時には上司や先輩が若いときの失敗した経験を話してあげれば、部下たちは「自分と同じなんだ」という気持ちになり安堵する。上司への共感が、部下たちのモンスター化を防ぎ、そのエネルギーを成長に転嫁させるのだ。

 学生や20代の社員と話をすると、彼らが本質的には私たちの若い頃となんら変わらないと感じたりもする。むしろ今の若い世代は、私たちが若い頃になかったような優しさを持っている。ボランティアに参加する腰の軽さ、人に役立ちたいという気持ち。さらには様々なITスキルや新しい世代ならではの価値観は「私」の学びにもなると思うのだ。

 そして、どうか会社は、モンスターが部下であるが故に、その苦しみを打ち明けられない上司たちを救う仕組みもきっちりと検討してほしい。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中の表記に誤りがありました。本文は修正済みです [2019/07/16 10:25]

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、 日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が 原因だった? “ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。 “ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。