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 知人はこう続けた。

 「1つひとつのことは、大きな問題じゃないし、余裕があれば対処できることなのかもしれない。でも、毎日毎日こうしたミニ事件が起こるわけです。ついこっちもカッとなる。でも、そこで大きな声でも出そうもんなら、パワハラになってしまうから我慢するしかない。

 すると、次第に自分を責めるようになるんです。自分に能力がないんじゃないかって。消えてくれればいいのに、とか思うようになってしまってね。

 家でもストレスを引きずっていたみたいで、妻からあるとき病院に行った方がいいって言われたんです。自分でもなんか俺おかしいって自覚もあったから、妻のアドバイスを素直に聞くことができたし、医者にすぐに会社を休まないと、取り返しのつかないことになるって診断されたときは『これであいつらから逃れられる』ってホッとしました。

 でも、心身が回復していくのと並行して、自尊心が著しく低下するんです。部下を教育できない自分が嫌で嫌で。この先、部下を持つのが怖いというか、二度と持ちたくないのが本音です」

ストレスにはライフイベントとデイリーハッスルの2種類

 おそらくここまで読んだ人の中には、「これってただ単に、知人くんの方に部下マネジメントの能力がないのだよ」だの、「メンタル低下したのは長時間労働が問題であって、モンスター部下は関係ないんじゃない」だのと思われた人もいるかもしれない。

 だが、人間の感情は複雑に交差し、感情は割れる。だからこそしんどい。第三者の目には「大したことじゃない」と映っても、当事者にとっては土砂降りのストレス豪雨となったりもする。

 私たちが感じるストレスは、ライフイベントとデイリーハッスルという、2つのシーンに分けられ、前者は人生上で起こる節目の出来事で、転勤や異動、転職、結婚、離婚、あるいは大切な人の死などが相当する。想定していなかった突然の出来事であればあるほど衝撃が強く、誰にとってもストレスフルで、ダメージも大きい。そのため周りからの共感も得られやすい。

 一方、デイリーハッスルは、日常的に遭遇するイライラ事で、人間関係のもつれや悩み、仕事上の失敗、忙しさからくる不満や怒りなど、誰もが普通に生活していれば遭遇するストレスである。

 が、何がデイリーハッスルになるかは個人により異なり、ストレス対処力の高い人は、そもそもストレスに感じない、あるいはストレスと感じてもうまく対処できるので、個人の性格の問題や能力の問題にされがちなのだ。