思い起こせば今から7年前の2012年10月。「ベテラン社員が若手の横で社内清掃」と見出しのついた新聞記事がネット上に出回り、今回と全く同じような空気が漂ったことがあった。

 内容は大手計測器メーカーのタニタの本社の様子を報じたもので、「60歳を過ぎたベテラン社員が、若手社員らのそばで社内を清掃している」との文言から始まり、同社の雇用延長の取り組みを報じたものだった。

 この年は「改正高年齢者雇用安定法」が成立し、段階的措置はあるものの、翌年4月から希望者全員が65歳まで働けるようにすることが企業に義務付けられた。

 タニタはその2年前の2010年に、雇用延長の義務化を見据えて60歳定年を迎えた社員を一定条件で再雇用するタニタ総合研究所を設立。64歳までの20人を再雇用したのである。

 当時、批判されたことについて、タニタ総合研究所の今正人社長は「仕事に就く前には十分に話し合い、納得してもらっている。中には技術を生かしてデザインを担当しているベテランもいる。だが、若手の仕事を奪うわけにはいかず、継続雇用の安定のためには、社外で仕事を探すことが課題」と答えている。

 実際はどうだったのかは分からない。だが、今、タニタ総合研究所関連情報を調べると、「タニタ本社ビルの社内清掃と外構の清掃業務」の求人情報が見つかるので、社長(当時)の言葉を借りれば、納得して若手のそばで社内清掃に励むベテラン社員も少なからず存在するのだろう。

ベテラン社員の「真のプライド」はどこにある

 いずれせよ、それまで自分が関わってきた仕事から他のキャリアに移行するときに、社会的地位が低いと見られている職業への転身を「プライドが許さない」「プライドが傷つく」と憂う人がいるけど、「ベテラン社員に真のプライド」があるからこそ、清掃業務だろうと、隣に若手がいようとも、働いているのではないか。

 逆にそういうプライドを持つ人なら、いかなる転身も辞さない。他者や世間に惑わされず、自分の価値判断を信じ取り組むことが可能なのだ。

 50歳以上の海千山千のベテラン損保マンには、「雪かき仕事」なんかにへこたれない強かさがある。会社が彼らを信じれば、損保マンから介護業界への転籍だって喜んで自分からチャレンジするはずである。少なくとも私は損保マンが介護を変えてくれると期待している。

 最後に、批判覚悟で言わせていただけば、お金を稼ぐという行為は、実に厳しいものだ。
 つまるところ、仕事は「誘い」があって初めて成立するものだと思う。

『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)


権力者による不祥事、職場にあふれるメンタル問題、 日本男性の孤独――すべては「会社員という病」が 原因だった?“ジジイの壁”第2弾。
・なぜ、優秀な若者が組織で活躍できないのか?
・なぜ、他国に比べて生産性が上がらないのか?
・なぜ、心根のゲスな権力者が多いのか?
そこに潜むのは、会社員の組織への過剰適応だった。 “ジジイ化”の元凶「会社員という病」をひもとく。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。