全5050文字

 研究グループによれば、欧州は90年代から一貫して「管理職と専門職」の死亡率が低く、「事務・サービス系」「工場や運輸など肉体労働系」の死亡率が高い傾向が続いていて、デンマークやスイスでは10~14年の肉体労働系の死亡率が、管理職と専門職の2倍強だった。

 ところが、日本では正反対の結果となってしまったのだ。日本では「管理職と専門職」の死亡率が急激に上昇し、2000年代に入り若干下がったものの、依然として高い傾向が続いていた。一方で、その他の職業階層での死亡率は継続的に低下していたのである。

 2015年には10万人当たり357人で、事務・サービス系の1.4倍。主な原因はがんと自殺だ。

 ちなみに日本同様、労働時間の長さが世界トップクラスの韓国でも管理職と専門職の死亡率が高いが、日本がバブル崩壊後急上昇したのに対し、韓国ではリーマン・ショック以降だったという。

 研究グループの小林教授はこれらの結果に対し、「時間の自己管理が建前の管理職は、自らを長時間労働に追い込みがちだ」と指摘している。

 自らを長時間労働に追い込みがち―――。

 言葉はシンプルだが、その行動に至る「心」は実に複雑である。

今、健康な人が危なさを実感するのは難しい

 私は一貫して長時間労働は規制すべきだと訴えてきた。だが、どんなに私が訴えたところで、「残業を規制するのはおかしい」という人たちには、私の言葉は全く届かなかった。

 どんなに「長時間労働だけじゃなく、睡眠不足もダメなんです!」と訴え、「ほら、こんなエビデンスもあるんですよ!」と統計的に分析された結果を示してもダメ。

 「週労働60時間以上、睡眠6時間以上」群の心筋梗塞のリスクは1.4倍で「週労働60時間以上、睡眠6時間未満」群では4.8倍ですよ、だの、1日の労働時間が「11時間超」労働群は「7~10時間」群に比べ、脳・心臓疾患を発症するリスクが2.7倍ですよ、だのと具体的に数字で示しても、今元気な人には全く実感が持てない。

 「労働基準法の第1章第1条には『労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない』と書かれているにもかかわらず、日本の企業は違反、違反、違反を繰り返してきた。その間、何人もの人たちが大切な命を奪われているんです」
と諭されても、全く腑(ふ)に落ちない。