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 私はこれまで「長期雇用」の重要性を何度も指摘してきた。理由は何度も書いてきたとおり、それが人間の生きる力の土台となり、すべての人が秘めるたくましさを引き出すからに他ならない。

 であるからして、今回の「終身雇用決別宣言」には、ある種の絶望感なるものを感じている。

 そして、働く人たちとの信頼関係で成立してきた長期雇用(終身雇用)という心理的契約を語るのに、
「雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがない」(by 豊田社長) 「一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」(by 中西会長) などと、インセンティブ、保証書というワードを用いたことに、心がひどくきしんでいる。

 いずれの方たちも、トヨタ自動車、日立製作所、SOMPOホールディングスといった日本を代表する企業のトップに上りつめた人たちで、色々な角度から経営を考え、チャンレジし、未来を見据えた上での発言だとは思う。

長期雇用は雇用制度ではなく「経営哲学」

 だが、なぜ、ひとこと「ただし、戦力となる社員は65歳だろうと、70歳だろうと年齢に関係なく雇用し続ける」と断言してくれなかったのか?

 なぜ「50代だろうと60代だろうと、我が社が求めるスキルを持っている人は年齢に関係なく新規採用する」と明言してくれなかったのか?

 それが残念でしかたがないのである。

 失礼ついでに言わせていただけば、経済界のトップの方たちは、長期雇用(終身雇用)を制度と考えているようだが、長期雇用は雇用制度ではなく「経営哲学」である。

 働く人たちが安全に暮らせるようにすることを企業の最大の目的と考えた経営者が、「人」の可能性を信じた。それは社員と家族が路頭に迷わないようにすることであり、その経営者の思いが従業員の「この会社でがんばって働こう。この会社の戦力になりたい!」という前向きな力を引き出し、企業としての存続を可能にしていたのではないか。

 人間は、相手との関係性の中で行動を決める厄介な動物である。

 「自分を信頼してくれている」と感じる相手には信頼に値する行動を示し、「自分を大切にしてくれている」と感じる相手には精いっぱいの誠意を尽くす。信頼の上に信頼は生まれるのであって、不信が信頼を生み出すことはない。