ただでさえ長いあいだ非正規を渡り歩いたり、無業期間が長くなったりした人たちは、精神的に厳しい状況に追い込まれているケースも多いというのに、「フリーターの半減を目指す!」だのなんだのと数値目標を掲げたところで絵に描いた餅だ。

 そんないくつもの“現場のリアル”を無視し、「ハローワークに行ってね!がんばって自己啓発して!」というような支援策が“再チャレンジ”といえるのか。いろいろと考え、議論している“お偉い方たち”にはたいへん申し訳ないけど、私には理解できないし、これが氷河期世代の「光」になるとは到底思えない。

 そもそも(そもそもばかりです!)今回の“能力開発”問題は、2008年にNIRA総合研究開発機構が報告書「就職氷河期世代のきわどさ」の中で示した、「氷河期世代がこのまま高齢化すると20兆円程度の追加的な財政負担が発生する」という試算結果に端を発している。当時、就職氷河期に増加した非正規雇用者は100万人を上回る規模で残存。非正規雇用の人たちが高齢化すると生活保護受給者が増えることが懸念された。

 が、現実はもっと深刻だった。2018年時の氷河期世代のフリーターは約52万人、非正規は317万人で、トータル400万人弱。この報告書が出された10年前の予想を大幅に上回ってしまったのだ。(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019/0410/shiryo_02-2.pdf

 そこで‥‥ここからは私の妄想だが、
「うそ!こんなにいるのかよ? やばい!なんかやらなきゃ!」と慌てて支援策に乗りだした。
「“リカレント教育”だよ!リ・カ・レ・ン・ト!『人生再設計第一世代』ってことでどう?」といったノリで、はやりのスローガンを掲げ、もっともリスクが少なく、改革しているように見せやすい「教育=自己啓発」に手をつけた。
‥‥と、私の脳内のサルやウサギは考えているのである。

‥‥とここまで書いて12日金曜朝刊を開いたら、小泉進次郎氏が事務局長のプロジェクトチームが「勤労者皆社会保険」の提言書をまとめたという記事が飛び込んできた。

 人生100年時代には転職や学び直しを繰り返すと想定。「就労を阻害するあらゆる壁を撤廃する」ために提示された「令和時代の7つの改革の1つ」が「勤労者皆社会保険」だったのである。

 「企業の被用者保険制度は主に正規雇用向けでフリーランスなどに対応できていない。勤労者皆社会保険として雇用形態を問わず社会保険に入れる制度を求めた。たとえば低所得者の保険料を減らしつつ事業主の負担は維持する制度案を示した」(4月12日付日経新聞より (https://www.nikkei.com/article/DGKKZO43635900R10C19A4PP8000/))

 これですよ。こういうまっとうな提言を実行に移すべく進めてほしい。就労支援と社会保障の連携なくして氷河期世代の救済策にはなり得ない。繰り返すが、氷河期世代を生んだのは「企業」であり、「社会」だ。ならば手をつけるのは「生みの親」であってしかるべきではないか。

 そして、もし、本気で「わが国の成長・発展を支える原動力は人だ」(by 安倍首相)と考えるのであれば正規雇用にこだわるより「非正規の賃金を正社員より高く」すればよろし。その方がよほど「人生再設計第一世代」になると思います!

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この記事はシリーズ「河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。