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(写真=shutterstock)

 知人が、突然会社を辞めることになった。

 理由は「親の介護」。85歳の母親と同居していた弟さんが、昨年、他界。そこで「予定よりかなり早いリタイアになってしまったけど、最後の親孝行・・・」との理由から、決まっていた出向を断り、早期退職を決断したそうだ。

 問題は彼の“弟さん”だ。私も全く知らなかったのだが、彼の弟さんは長年、家にひきこもっていたのである。

 「弟はね、元気な子だったんだよ。僕なんかより社交的で、頭も良かった。いわゆる“エリート”。ところが30代後半に体を壊してから、人生の歯車がくるってしまった。そう、メンタル、やっちゃったの。

 あの頃は長時間労働が当たり前の時代だったでしょ。だから本人はその時点で、自信をなくしてるわけですよ。脱落してしまったと思っていたんじゃないのかなぁ。

 結局、復職もうまくいかず辞めることになった。それでも辞めて半年くらい経って、契約だけど以前の会社の関連会社に就職したんです。ところが、また辞めてしまった。

 理由は・・・わからない。もう、いい大人だから言わないでしょ。兄貴には余計言わないよね。それからですよ、ひきこもりがはじまったのは。

 うちは父親が早く他界してるから、母親と二人。80歳を過ぎてから母親が急に老け込んで、母親の面倒は弟がみてたみたいだけど、どんな生活だったんだろう。なんかさ、僕も正月くらいしか実家に帰らないし、よくわからないんですよね。

 ただ、母親はずいぶん心配してましたよ。『〇〇(弟)のこと考えると死ねない』って。

 弟は結局、がんで死んじゃったの。 本当にかわいそうなことをしてしまった。今から言っても遅いんだけど、自分にも何かできることがあったんじゃないかって。そんなうしろめたさがあるから、会社を辞めて実家に戻ることにしたんです。

 ・・・・でもね、やっぱりうちの会社でも体壊して退職を余儀なくされると、就職は大抵うまくいってないですよ。自分も無茶苦茶な働き方してて、ここまできたのは奇跡なのかなぁって思うこともある。病気したら終わり。敗者復活はない。一歩違えば自分が弟になっていたかもしれないしね。まぁ、そういうわけですよ」