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氷山の一角?

 それに……、今回の逮捕は「ついに出た」とするのが正確な表現であり、“超勝ち組のOB”による学生への悪質なセクハラはかなり前から問題視されていた。そこでの「セクハラ」には自らの優位性を背景にした傲慢な視線があり、ちょっとわきが甘い、コミュニケーション下手の男性が、さしたる自覚もなくついうっかりやってしまう類のものとは大きく異なる(それはそれで許されない行為ではあるけれど)。

 「エントリーシートを添削してあげる」だの、「面接のやり方を教えてあげる」だのと、LINEなどで個別に連絡を取り、学生を夜間に飲食店などに呼び出し、付き合わせる。「人気の大手企業の内定取りたきゃ、セクハラも我慢しなきゃならない」といった馬鹿げた噂まで、学生の間で出るほどだった。

 つまり、あれだ。マッチングアプリの普及で“超勝ち組のOB”による悪質なセクハラがお手軽に行われるようになってしまったわけで、私が思うに、氷山の一角が明るみに出ただけ。誰にも相談できず泣き寝入りしている学生も少なくないのではないか。

 「“一線”を越えそうなら、きっぱりと断ればいい」と批判する人もいるかもしれないけど、それって、そんな簡単なことではない。私のような“ジャジャ馬”でさえ、若い時分、電車の中で痴漢に遭った際には怖くて声を上げることができなかった。

 理屈じゃない。「オトナ」という別世界の存在に、自分がターゲットにされることへの恐怖心。身体が金縛りにでもあったように身動きできなかった罪悪感。そんないくつもの怖さ、恥ずかしさ、悔しさから、自己嫌悪に陥り、行動不能に至り、ただただ我慢するしかなくなってしまうのである。

 今となってはそんなウブな時代があったなんて……信じられないけど。

 しかし、いったいなぜ、これほどまでに「何をやっても許される」と勘違いする大バカな若者が増えてしまったのか?

 私は、世の中の不透明感に伴って強まっている、“大手病”とも呼ばれる学生たちの大企業志向が大きく影響していると考えている。勝ち組の椅子取り競争が年々激化する一方で、椅子を得た若造が勘違いし、結果的に“オレ様エリート”が増殖する……。

 就職情報大手のマイナビが、2019年春卒業予定の大学生らに行ったアンケート調査では、「大手企業に就職したい」という回答が54.5%と前年調査より1.7ポイント上昇。特に、その傾向は男性に多く、「絶対に大手」と答えた男子の割合は文系、理系ともに女子の2倍近かった。その一方で、リクルートワークス研究所の調査によると、従業員数が5000人以上の企業の求人倍率は0.37倍と、狭き門だ(関連記事:日本経済新聞「『大手・安定志向』鮮明に、就活生意識調査 マイナビ」)。

 希望していた中小企業に内定をもらっていた学生が、大企業に決まった友人に触発され改めて大手を目指した結果、「自分は何がしたくて、何を求めているのか……何が何だか分からなくなってしまった」と嘆いていたことがある。学生たちの中では、おそらく私たち“オトナ”が想像する以上に、「大企業に就職する」というだけで、自分と他者を隔てる特別感が作られているのである。