「極めて現実的な数字」と理解を示す“お医者さま”たち
ところが、“お医者さま”たちは「極めて現実的な数字」と、厚労省案に一定の理解を示した。
医療従事者向けサイトm3の報道によれば、今から 1年前の厚労省検討会でも、同省が示した残業の削減や規制に対する基本的な考え方に対して、以下のような意見が相次いだとされている。
「一貫して“医師は被害者”という論調になっている。長時間労働でも、生きがいを持って仕事をしている医師たちは山ほどおり、そうした医師のことが考えられていない」(日本医師会副会長の中川俊男氏)
「労働時間とストレスの関係を調べた調査では、医師については、両者が相関していない。医師の仕事の特殊性を認識してもらいたい」(日本医療法人協会会長の加納繁照氏)
「自分自身の仕事に誇りを持ち、それに満足している医師がいる一方、過労死する人もいる。リスクがある人をいかに見出すかを考えていかないと、労働時間の規制という外形的な仕組みだけを作ってもうまくいかない」(国立病院機構理事長の楠岡英雄氏)
おそらく私のような「医師の世界の外」の人間が意見を言おうものなら、「アンタは何もわかっていない。目の前で助けてくれと言う患者を見捨てろと言うのか!」「今、働き方改革を強引に進めれば地域医療は崩壊する」と怒鳴られるに違いない。確かに、マンパワー不足が極めて深刻な医療機関も少なからずあるのだろう。だが、「生きがいを持って」仕事をしようとも、どれだけ「誇りを持って」いようとも、長時間労働をすれば心臓や脳はダメージを受ける。前向きな気持ちとは裏腹に、心身は確実に蝕まれる。
先々週の同省検討会では「(月160時間以上残業をしている)勤務医2万人をなくすことに意味がある。段階を踏んで一般の労働者と同じような働き方ができるよう目指していくことが大事だ」という見解だったそうだが、その過程での悲劇は仕方がないということなのだろうか。
これまでの議論では「医師の場合、労働量とストレスの間には相関がない」と主張もあったようだが、これってどこぞの大学病院の「女子の方がコミュ力が高い」を彷彿とさせるトンデモ見解である(関連記事:男らしい!順大不正入試「女子コミュ力高い」論)。
そして、何よりも医師の健康状態は、そのまま患者に跳ね返るとする以下の調査結果をどう説明するのか、是非とも教えてほしい。“お医者さま信仰”が医療ミスを誘発するという意見にはなんと答える?
● 長時間勤務になると、針刺し事故が統計的に有意に増加
(Ayas NT, Bager LK, et.al .Extended work duration and the risk of self-reported percutaneous injuries in interns. JAMA ,2006)
● 3日に1回 24 時間以上の長時間連続勤務をした場合と長時間連続勤務の上限を16時間、週当たりの勤務時間を60時間に制限した場合を比較すると、24時間以上の連続勤務の「処方ミスと診断ミス」が明らかに多い
(Landriga CP, Rotheschild JM, et al. Effect of reducing interns’ work hours on serious medical errors in intensive care units. N Engl J Med,2004 )
● 前日に当直であった医師が執刀した手術後 の患者においては、合併症が45%多かった
(Haynes DF, Schewedler M, et al. Are postoperative complications related of resident sleep deprivation? South Med J, 1995)
……etc.,etc.
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