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おカネはやっぱり、大切なご褒美

 物流大手の日本通運は4月から非正規社員の賃金を引き上げ、正社員との待遇格差を解消する方針だ。これと並行して賃金体系についても、入社年次やキャリアから、能力や担っている役割を重視した形に改める方向で検討しているという。

 同一労働同一賃金が盛り込まれた働き方改革関連法の施行も控えており、正社員と非正規の賃金格差は当然、是正されるべきだ。ただ、広がりつつある是正の動きを、諸手を挙げて評価できない自分がいるのもまた事実。待遇格差の解消に伴い賃金体系を変更し、成果主義にシフトする中で、正社員の賃金水準が下がった例も見られるからだ。

 非正規と正社員の賃金格差は依然として大きい。30代前半の平均月額賃金は、正社員28.1万円、非正規社員21.1万円で、その差は約7万円だが、年齢が上がるにつれさら広がり、30代後半で約10万円、50代前半では20万円近くにまでなる(平成29年賃金構造基本統計調査)。この差を、非正規の引き上げではなく、正社員の処遇“改悪”によって縮める方向に進む気がしてならないのである。

 フォードの創業者のヘンリー・フォードは「1日5ドル」という、当時としては破格の賃金を払うことで、同社を世界的な企業に育てた。彼はのちに取材を受けるたびに、生産性向上と離職対策に大きな効果を上げたこの賃金政策について、「我々が考案した中で最高の費用削減の手段の1つが、1日5ドルの賃金を決めたことだ」と繰り返した。

 また、米スタンフォード大学経営大学院教授で組織行動学者のジェフリー・フェファー博士は、経営学を労働史から分析し「人件費を削ることが長期的には企業の競争力を低下させ、経営者の決断の中でもっともまずいものの元凶であることは歴史を振り返ればわかる」と説く。

 昨年、Amazonが最低賃金を時給11ドルから15ドルに上げると発表し、大きな話題となった。賃金を上げる企業は優秀な人材を魅了するし、そこで働く人たちのモチベーションだって高まる。高い賃金の仕事を失いたくなければ「肩叩きをされない」ように、働く人たちだって頑張るに違いない。

 おカネがすべてではないけれど、おカネは私たちにとって大切なご褒美だし、自分の成果を測る目安にもなる。人間の生きる力であるSOC(sense of coherence)の理論においても、おカネは人の生きる力を引き出す極めて大切なリソースとされる。と同時に、お金は個人の幸福感をも左右する。

 人間はやっかいな性癖を持つ生き物で、「他者と比較する」特性がある。平たく言えば「上」か「下」。勝ち組・負け組という言葉が好んで使われるのも、私たち人間は他者のまなざしから逃れるのが極めて難しく、絶対的価値より相対的価値により幸福感や満足感が左右されがちなのだ。だから、比較が容易な「おカネ」は、その意味で重要なのである。