「ソニーへの手紙」は正しかった

(画:小田嶋隆)
(画:小田嶋隆)

 ソニーが昔と同じ輝きを取り戻すのかどうかは、わからない。

 個人的にはむずかしいと思っている。

 仮に、ソニーが業績を回復することになるのだとしても、その業態は、前世紀の姿とはずいぶん違ったものになっているはずだ。

 というのも、イノベーティブな企業は、その精神を目に見えるカタチで体現していた創業者の死を契機として、新しい段階に移行せねばならないはずだからだ。

 「モリタさんならどうするだろう」(あるいは「ホンダの親父さんならどうするだろう」「ジョブズならどうするだろう」でも良いが)という問いが、とうの昔に全社員にとっての自明の前提でなくなっている以上、ソニーは新しい問いを発明しなければならない。そういうところに来ている。

(2012年4月13日掲載「ソニー、過去最大赤字の『衝撃』」)

 愛がありますよね。

石塚:うちの妻に見せたら感動していましたよ。

 それはなによりでした(笑)。

石塚:でもこれ当たっているから。「ソニーが昔と同じ輝きを取り戻すかどうか分からない、個人的には難しいと思っている。仮にソニーが業績を回復することになったのだとしても、その業態は全盛期の姿とはだいぶ違ったことになる」って、確かに10年前と比べるとだいぶ違っちゃいましたよね。

 確かに。

石塚:そして変革は突然起きたのではなくて、やっぱりこの頃から始まっていたわけです。

小田嶋さんがなにより愛したのは

 それが評価されていないとしたら寂しい気もしますね。小田嶋さんは世間的な評価というものをそんなに気にしない方だったと私は思っているんですけれども、お通夜、いや、「送別会」だったかな、参列させていただいて、とてもたくさんの人々が詰めかけていて、全国紙でも報じられて驚きました。経営者の方ってどうなんでしょうね、一線を去っても、公の中に自分の名を残したい、とか、やっぱり思うんでしょうか。

石塚:少なくとも僕はまったく興味ないです。要するにそれは、レジェンドが欲しいということでしょう。

 そうですね。会社なり業界なり社会なりに、何らかのレジェンドとして残りたいな、という気持ち。それって、ないんですか。

石塚:うん、人それぞれだと思いますが、正直私はまったくないので、それは逆に不思議です。いつまでも偉い人扱いされたい人もいるだろうし、そうでもなかったけれど奉られているうちにその気になっちゃったりね。その変質自体には、個人的にちょっと興味があるんですよね。自分はなりたくないし絶対にならないと思うんですけど、人間って不思議なものだなと。

 役職にしがみついていたり、利権を放さなかったりとか。

石塚:そういう人に僕は反発を感じるし、そこを小田嶋さんが痛快に言ってくださると、我が意を得たりという気分になるんですよ。

 小田嶋さんはご自身でおっしゃっていたんですけど、なによりも自分の文章が、とにかくお好きな方だったんですよ。

石塚:ん? 自分の何ですか。

 自分の書いた文章が。「なんだったら、ずっと自分の文章を読み返していられるよ」みたいなことを笑いながら言われたことがありました。

石塚:ああ、それは僕らが製品を作るのと同じですよ。自分の思いを込めた子どもみたいなものだから。自分が気持ちを込めて作りだしたものを見直して、自分は仕事頑張ったなあ、と思えたら、それは最高のご褒美ですよね。その話を聞けただけでも、手紙をお送りした甲斐がありました。

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