石塚:ハリルホジッチ日本代表監督は、不明瞭な日本サッカー協会の方針で交代になっちゃったけど、結局彼が率いた路線で「結果」が出たんでしょうと。
と、小田嶋さんは言っている。
石塚:それって経営者も同じで、長期レンジで物事を考えていたとしても、目先の結果はなかなか出ないんですよ。
そういえば、出井伸之さんがお亡くなりになりました(2022年6月2日。ソニー社長、CEOなどを歴任)。
経営者の評価は時間がたたないと分からない
石塚:出井とは、約20年前に私が新米の事業部長だった頃、会議だけではなく、次世代のビジネスリーダーの育成をする社内研修でも指導を仰ぎ、その後もゴルフや飲み会で親しくしていました。
1月に久しぶりに会ったところだったんですけれどね。一緒に食事をして、ワインを飲んで、その後もメールが来たりしていて、ものすごく元気で。もう100歳まで生きるんだろうなと思っていたんですけど。
出井さんも毀誉褒貶(ほうへん)の激しい経営者でしたね。
石塚:吉田(憲一郎、ソニーグループ会長兼社長CEO)も言っていますけれど、今のポートフォリオの作り方とか、グループの仕組みなどは、出井から学んだことが多く生かされています。90年代の後半から2000年代である程度こういった構想の準備ができていて、25年ぐらいたってみるとちゃんと形になった。
これは嫌だったら書きませんが、石塚さんから見たら「何、やっているんだろう」と見えたことはありませんでしたか。
石塚:当時すでに幹部として彼に近い立場にいたので、私は論評しない方がいいと思います。言える範囲で言うと、やるべきことをちゃんとそれぞれが、例えば事業グループがしっかりやって、収益をちゃんと出していることが、経営戦略では大前提で、利益さえしっかり出していれば、そんなに変なことにならないんですよ。だけど当時は結構、でこぼこがありました。
赤字には赤字の理由があるんですよね。しかも大赤字になってからって、直すのは大変なんですよね。なので、出井さんの全体の方針とか方向性が問題だったということではなくて、いわゆるエグゼキューション、実行の段階でちゃんとやるのが大事で。今、ソニーの業績がいいのは、それぞれの事業があるレベル以上の実績をちゃんと出しているからですね。もっと言えば、実績が出ていると、戦略や方針がきれいに見えるんですよ。
はい、その通りです(笑)。すらすらと記事が書けますね。
石塚:何でもね、勝てば官軍で。
してみると、このサッカーは、前々回の南アフリカW杯でスペイン代表が優勝して以来王道となった「ポゼッションサッカー」(常にボールを保持し、相手に攻撃を許さないことで勝利の確率を高めるサッカー)の、正反対の戦術ということになる。
そして、その堅守速攻のカウンター志向のサッカーこそは、ハリルホジッチが日本代表の戦術として定着させようとして、最終的に(誰によってなのかは知らないが)拒絶されたところのサッカーでもある。
なんということだろう。
われわれは、追放した人間によって授けられた戦術によって勝利を得たわけだ。
でもハリルホジッチ監督のように、結果が出る前に別の理由で更迭されたりすると、その打って来た手すら、もう彼のものではなかったかのようにされる、と小田嶋さんは憤っていました。
石塚:それは日本人のよくない……日本人に限らないのかもしれないけれど、しっかりレビューをしないですよね。責任を取って誰かが辞任するとそれですべてリセットになっちゃって、その人がやってきた功罪を含めたレビューが出てこない。
企業はやっぱりゴーイングコンサーンなので、長い時間軸の中でいろいろなことが起こります。経営者をどう評価するかというのは難しいし、トップの人事というのも難しいですよねという。
サッカーの監督さんとか、日産自動車を立て直した後あんなことになったカルロス・ゴーンさんとか、世の中が「うん、みんなこいつが悪いんだよ」と、一種決めつけが済んでいるものに対して、小田嶋さんは「そうとは限らないだろう?」みたいな視点を出してくる。
石塚:そう、私もひねくれ者なので、何か書かれると、いや、そうじゃない見方もあるでしょうって、必ずちょっと疑ってかかるところがある。
小田嶋さんっぽいですね(笑)。
石塚:そうそう、きっと小田嶋さんのコラムが好きな人はひねくれたところがあるんじゃないかと思うんですよ。
それは自分もそう思います(笑)。
石塚:申し訳ないけど、メディアの人って付和雷同するじゃないですか、流されて、書きやすいから。だから、どこへ行っても同じ記事が多いので面白くない。そういえば、当社が一番苦しい時期に小田嶋さんが書いてくれたコラムがあったんですね。
ああ、ご参考にお送りした回ですね。
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