
建国記念の日に当たる2月11日の深夜、新潟の製菓工場で火災があった。
出火の原因や避難が遅れた経緯など、事故の全容は、いまなお完全には解明されていない。被害の詳細が明らかになるのも、しばらく先になるだろう。
火災現場からは、これまでに判明しているだけで、6人の遺体が確認されている。
いたましい話だ。
火災に見舞われた米菓メーカーは、ときどき、近所の量販店の棚で見かけるブランドでもあれば、実際に食べたことのある商品の製造元でもある。なので、焼けた工場の名前を聞いた時、私は、他人事とは思えなかった。
第一報で死亡が伝えられているアルバイト清掃員が、いずれも高齢の女性(最初に発見された4人はそれぞれ73歳、70歳、68歳、71歳の女性)であったことにも、強い衝撃を受けている。しかも、火災は、亡くなったアルバイト職員たちが、深夜の清掃業務に従事している間に起こった事故だったというではないか。
「なんともはや、こんな真夜中に、平均年齢約70歳の女性たちが、工場清掃のアルバイトをしていたのか」
という私の驚きは、あるいは、時代遅れなのだろうか。
それ以上に、高齢者や女性への、私自身の偏見であるかもしれない。
ただ、私がびっくりしたのは事実だ。
「70代の女性が深夜アルバイトをしないと食えないのか?」
という私と同じ世代の多くの者が抱くであろう慨嘆は、一見、いたわりに満ちているようでいて、実のところ、働く人々や、高齢の女性たちを一段低く見る目線を反映しているのかもしれない。
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