衆院選の投票日が間近に迫っている。
 ひところ話題になったVOICE PROJECTについて一言述べておきたい。
 投票日を直前に控えたこの時期を逃すと、何を言ったところで間抜けな後知恵になってしまうからだ。
 個人的には、窮屈な社会の中で、芸能人というやや複雑な立場の人たちが、率直な声を上げたことに感銘を受けている。
 びっくりしたと申し上げても良い。
 というのも、私は、わが国の芸能界を、無難であることから一歩も外に出ようとしない意気地のない人間たちが肩を寄せ合って暮らす、典型的なムラ社会だと思い込んでいたからだ。
 不明を恥じねばならない。
 時代は、私の知らないところで、少しずつ変わりつつある。
 人々の反発を恐れて政治的な発言は極力控え、びくびくして暮らすことだけが金科玉条であったかつての芸能人の行動規範は、すでに無効になっているのかもしれない。
 もちろん、件の動画が、そのまま若い世代の投票率を向上させる効果を発揮するのかどうかは、まだわからない。
 ただ、投票率を示す数字とは別に、今回のプロジェクトの意義は、「顔や名前を知られた人間たちが、政治に関連する事柄に言及する前例を作った」ところにある。このことの影響は、これから先、うちの国の社会とその陰険な設定を、少しずつであっても確実に変化させていくはずだ。
「有名だからといって黙っていなくても良い」
 ことは、ささいな一歩であるように見えて、実際のところ、非常に大きな前進なのである。
 昭和のアイドルさんたちは、それこそ、食べ物の好き嫌いや、ひいきの野球チームを明らかにすることさえはばかっていた。あの人たちは、それほど、不特定多数のファンの反発を恐れていたのだ。

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この記事はシリーズ「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。