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 またしても、酒の話をせねばならない。
 2週間ほど前の当欄で、私は、われら日本人が、飲酒という慣習ないしは文化に、寛容な人々であるという内容の原稿を書いた。
 さらに、オリンピックが、なにかにつけて酒食をともにしたがる過度に同調的な人々であるわたくしたちが、相互に提供しあっている「酒食の饗応」の延長上にあるイベントとして開催されようとしている旨を述べたうえで、末尾の4行を、
《オリンピックは、中止できないと思う。
 あれは、飲み始めてしまった酒と同じだ。
 ゲロになることがわかりきっていても、飲む人間は最後まで飲むだろう。
 私は、付き合わないつもりだ。》
 と、締めくくっている。
 この結論部分は、私の中で、いまも変わっていない。
 私は、飲酒に対しても、五輪に対しても、冷ややかな態度で対処するつもりでいる。

 とはいえ、それはそれとして、今回は、ちょっと別の角度から、アルコールとオリンピックの関係を読み解いておきたい。

 東京都には、この7月12日から8月22日まで、4回目の緊急事態宣言が出されている。この宣言にともなって、政府は、都内の飲食店に、酒類の提供を停止する旨を要請している。

 7月8日の夜、西村康稔経済再生担当相が、酒類の提供停止要請に応じなかった飲食店に、金融機関を通じて順守の働きかけを行ってもらうと発言すると、世間は、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
 当面のターゲットとなった飲食店はもとより、金融機関やその周辺からも続々と反発の声が上がり、ネット上のSNSやブログにも
「順守の働きかけとか、いったい何様のつもりなんだ?」
「銀行を自分の配下のチンピラだとでも思ってるわけなのか?」
「要請に従わない店舗に圧力をかけることを許す法律的な根拠があるのだとしたら、ぜひ詳しく教えてほしいものだな」
 といった調子の疑問や批判のメッセージが一斉に書き込まれた。
 そんなこんなで、9日午前、菅義偉首相は、西村大臣の発言を
「承知していない」
 とする、不可解な弁明を並べる事態に追い込まれた。

 この時の菅首相の弁明は、どうにも不得要領な寝言としか申し上げようのないものだったのだが、ともあれ、その後、事態は、西村大臣が一連の発言を撤回し、あわせて、13日の時点で金融機関への要請と酒類販売業者への取引停止の依頼を撤回したことで、一応は落着の方向に向かっている

 8日の西村大臣の発言が、大臣個人の独断によるものだったのか、それとも、世論の反発の激しさにあわてた官邸が、既定の方針をひるがえしつつ、この度の朝令暮改の責任を、西村大臣一人に押し付けて知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいるということなのか、真相は、いまもって藪の中だ。

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