ほどなく、3回目の緊急事態宣言が発令されるようだ。
 まあ、仕方がない。
 PCR検査の実施数が頭打ちで、ワクチン接種のメドが立っていない以上、お国としても、国民に忍耐を強いるほかに打つ手がないのだろう。

 ちなみに、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長は、4月21日の会見の中で、五輪選手には大会中毎日のPCR検査を実施する方針を明らかにしている。なんと毎日!である。

 つまり、「頻回の検査と陽性者の隔離を確実に励行していれば、感染の拡大を防止できるはずだ」という、昨年来ずっと言われていたこの当然の指摘を、政府の中枢にいる人々は、内心ではきちんと理解していたのである。
 とすると、彼らが、その「検査と隔離による感染拡大防止策」を、五輪出場選手に適用する一方で、その同じ方針を、われら一般国民に適用しないでいる理由は那辺にあるのだろうか。

 数が多いからあきらめているのだろうか。
 それとも、コストがかかるので実施したくないということだろうか。
 あるいは、検査の拡大によって判明する感染者数が増加すると、その数字が五輪の大会開催にとってマイナスになると考えているのだろうか。

 いずれにしても「棄民」と言われても仕方のないやりざまに見える。
 もしかして、この国の中枢にいる人たちは、新型コロナウイルスの感染爆発の結果として、免疫力の高くない国民や生産に寄与しないご老人の人口構成比を低下させることができれば、その分だけ国民健康保険の負担を減らせるとか、そういう計算コミで国策を立案しているのだろうか……というのは、いくらなんでも底意地の悪い陰謀論なので、一応撤回しておく。とはいえ、今回のこの措置が、五輪選手村の内部だけは、なんとしてでもウイルスの脅威から守りたいというお国の強い決意を物語るものである旨は、この場を借りて、大きな声で指摘しておきたい。要するに、お国は選手村をウイルス感染から守る決意を内外に告知しつつ、同じ基準で全国民を守るつもりは持っていない、と、そういうふうに私は受け止めている。

 ワクチン接種の遅れも、限度を超えている。
 独自開発がかなわなかったことは、いまさらどうこうできる話ではない。というのも、わが国の研究開発力の低迷は、この20年(30年かもしれない)ほどの経済力の低下と国策の転換(ありていに言えば「未来への投資よりも目先の日銭」ということ)がもたらした必然で、だとすれば、政府が改心し、全国民が奮発したとしても、国家としての科学力の回復には、少なくとも20年はかかるはずだからだ。

 ワクチンの認可が遅れ、調達が進まず、接種の順序やスケジュールが一向に明らかになっていない現状は、つまるところ、菅義偉首相ならびに河野太郎ワクチン接種担当大臣の責任に帰するほかにどうしようもないと思うのだが、その河野氏は、4月21日の衆院内閣委員会で、立憲民主党の大西健介議員が、訪米中の菅首相とファイザー社との電話会談のセッティングの経緯を質したのに対して
 「この件にかかわっていませんので、なんとも申し上げられません」
 と回答している。
 ワクチン担当の大臣として、あり得ない答弁だ。

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