であるから、渡辺直美さんが、例の「オリンピッグ」の演出に対して最初に出した公式コメント(←全方位的に誰も責めていない極めて穏当で抑制の利いた文案でした)を、過剰に賞賛する各方面の声に、私は、強い違和感を抱いたのだ。

 なので、ツイッター上に
 《個人的には、渡辺直美さんのコメントへの過剰な賞賛がSNS上でこれ見よがしに拡散されていることと、伊藤詩織さんへの不当なバッシングが一向に衰えないことは、ひとつながりの出来事なのだと思っている。要するにうちの国の男たちは「屈辱の中にあって笑顔を絶やさない女性」が大好きなのだね。》

 という発信をした。
 このツイートには、賛同と反発の両方の反応があった。

 ……それはつまり、わざわざ発信者に反発の意思を伝えてくる人間が、それなりの人数として存在していたということは
 「わりと反発された」
 と受け止めなければならないのだろう。

 ひるがえって、渡辺直美さんのコメントを手放しで賞賛しているツイートには盛大な「いいね」が付けられている。
 ということは、やはり人々は、機嫌の良い人々によるポジティブな発信の方を好んでいるわけだ。

 ケチをつけるために取り上げたと思われるのは心外なので、以下、概要だけを引用する次第なのだが、つい先日、ある人気アカウントが投稿した
 「不機嫌な態度をとるほうが、得する世界が終わりになるといいな」
 という意味のシンプルなツイートが、丸一日ほどのうちに約13万件の「いいね」を獲得するという“事件”があった。
 この事実に、私は静かに打ちのめされている。
 人々はどうやら「キャンセル・カルチャー」にうんざりしはじめている。
 のみならず、抗議や告発をめんどうくさがりはじめている。
 この流れは、もはやキャンセルできないのかもしれない。

 もっとも、
 「不機嫌な態度をとるほうが、得する世界が終わりになるといいな」
 というこのシンプルな言明が人々の心をとらえたのは、必ずしも、抗議する人々への忌避感からではないのだろう。
 むしろ
 「威張り散らす権力者」
 や、
 「意味なくにらみつけてくるおっさん」
 や、
 「やたらとカリカリしている顧客」
 が醸しているいやーな感じを的確に言語化してくれたツイートへの賛意が、約13万件の「いいね」であったと考える方が自然だ。