愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)に向けた署名集めをめぐって、奇妙な事実や不可思議な背景が漏れてきている。

 現状で判明している事実と、明らかになっていない疑惑を整理しつつ、事態を適切に説明し得るシナリオと、今後究明が期待されるポイントを検討していく大切な仕事は、ジャーナリズムの世界の記者さんたちにまかせる。

 私は、自分の足で取材をしている人間ではない。ひとさまの書いた記事を上から論評して、なにがしか意味のあることを言える立場の人間でもない。
 なので、当稿では、自分の身に起こったことを起点に、今回の事件を、個人的な視点から眺め直してみるつもりでいる。
 事件の真相や背景について、憶測を並べることは差し控える。

 というのも、署名運動を推進していた人々の杜撰な仕事ぶりや粗雑な情報管理のありさまが、続々と漏れてきてしまっている現今の状況からして、事態の全容が解明される日は、そんなに先の話ではないはずだからだ。とすれば、私が、現時点で、稚拙な推理を振り回すのは得策ではない。
 もっとも、アタマの中に、いくつか、事態を説明する見立てが出来上がっていないわけでもない。正直なところを申し上げるに、その「私なりの陰謀論」を披露して、喝采を浴びたい気持ちもあるといえばある。
 とはいえ、そんな子供だましの憶測をいまここで開陳してみせたところで、せいぜい3ヶ月後の赤っ恥を先行予約するくらいの意味しかないだろう。そう思って、ここは、ぐっと我慢をして黙っておくことにする。

 2日ほど前、現今の事態をからかう替え歌ツイートを投稿したところ、大きな反響があった。具体的には、リプライと引用RTを合わせて、ざっと1000件ほどの罵倒が押し寄せているということだ。
 反響の大きさには、幾人かのSNS上の著名アカウントが反応したことと、あとは、スポーツ新聞が記事にしたことが影響しているのだろうと考えている。

 ひとつ明らかにしておきたいのは、リンク先の「東京スポーツ」紙の記事に関連して、ネタ元である私のもとに、公式の取材要請がなかったことだ。
 東スポの編集部は、記事執筆前に、アプローチをしてこなかった。
 ということはつまり、記者は、ツイッター上の私の投稿をそのまま無断で引用して記事を書いたわけだ。
 記事を紙面に掲載(あるいはweb上にアップ)する段階でも、彼らは、その旨をオダジマに予告しなかった。
 さらに言えば、記者氏は記事がweb上にアップされた後、その旨を報告することすらしなかった。

 要するに、東スポ編集部は、事前取材をせず、記事掲載予告もしなかったばかりか、事後報告さえ怠ったまま現在に至っている。
 これまで、いくつかの媒体で、東スポwebをはじめとするいくつかのスポーツ紙の記事制作手法に疑念を表明したことがあるのだが、今回、不意打ちのような記事をいきなり掲載されたことで、あらためて商業メディアの頽廃ぶりを思い知らされている。

 そういえば、2014年にとあるアイドル歌手の発言を揶揄するツイートをめぐって炎上を引き起こしたことがあった。
 あの時も、今回と同じく、無取材無断無報告で私的なツイートを記事化されて、たいそう往生したものだった。

 いまあらためて思うのは、あの厄介だった2014年の炎上も、現時点のメディア状況と比べてみると、まだまだ牧歌的だったということだ。
 現今の状況を鑑みるに、スポーツ各紙ならびにテレビのワイドショーおよびSNSまわりのあれこれを含めたメディアの劣化は、この7年ほどの間に、恐ろしい速度で進行して末期的な様相を呈している。

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