
今年の当欄の更新は今回で最後だ。
なるべくなら明るい話題で2020年を締めくくりたかったのだが、諸般の事情から、どうやらそういうわけにもいかない。
12月21日、22日の両日、毎日新聞が有料契約者向けに公開しているWebコンテンツのひとつ「医療プレミア」内で、小林よしのり氏(67)のインタビュー記事を掲載した。
この記事に関連して、私は以下の2つのツイートを発信した。
《いま、この時期に、この状況で、よりにもよって小林よしのりの言い分をまるで無批判に垂れ流しにするインタビュー記事を掲載する毎日新聞の見識に心の底からあきれている。逆張り言説でメシを食おうとする人間がいること自体は個人の自由だが、新聞がそういうヤカラに翼を与えちゃダメだろ。午前9:19・2020年12月21日》
《(下)も小林よしのり氏の言いたい放題を拝聴するだけの翼賛記事ですね。論評も検証もゼロ。両論併記すらしていません。失望しました。午前9:39・2020年12月22日》
で、このツイートへの反応が軽く炎上している。
賢明な人間であれば、自分の炎上ネタは扱わない。
というよりも、賢い人間の振る舞いとしては、小林よしのり氏のような人物とのやりとりは黙殺することになっている。別の言い方をすれば、小林よしのり氏のようなタイプの言論人は、優秀な文筆家や賢明な有識者が、あえて相手にしないからこそ、メディアの中で生き残ることができているわけだ。
でも、私はあまり賢くない。
なので、今回は、新型コロナウイルスを軽視する論陣を張っている人々をあえてテーマとして持ってくることにする。
過剰に賢明でないことは、書き手としての私の数少ない長所のひとつだ。
というのも、賢明で先の見える人間は、面倒くさい仕事には関与しないものだからだ。
そして、厄介なやりとりや危険を伴う論争を回避する賢さを備えた書き手は、いつしか文筆の仕事から離れてしまうのだな。
私の知る限りでも、何人もの秀逸な文章家が、業界を見限っている。彼らはいまや別の世界でまったく違ったタイプの仕事をしている。
勘違いしてはいけない。出版業界が彼らを見捨てたのではない。彼ら優秀な書き手が、面倒くさいばかりでさしたるメリットを提供しない文筆の仕事に愛想を尽かしたのである。
しかしながら、もう一度言うが、私は賢くない。
なので、小林よしのり氏のような、対峙した相手になんらの利益をももたらさない面倒くさい人間にも、律義に対応する。わがことながら愚かなリアクションであることは自覚している。でもまあ、こうして相手をしてさしあげるのは、これが最後だ。クリスマスプレゼントだと思ってもらえるとありがたい。
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