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 今週もまた、菅義偉新政権の話題に触れなければならない。
 このことについて、まず、読者の皆さまにお詫びしておく。
 思うに、商業メディアに連載を持っている書き手が、3週連続で政権批判めいた文章を書くことは、「コラムニスト」という職業の矩(のり)をこえた所業だ。言ってみれば「運動家」のやりざまだ。

 もっとも、私は、誰かに頼まれて倒閣運動を展開しているのではない。
 菅さんに対して私怨を抱いているというわけでもない。
 にもかかわらず、3回続いて似たような話題を取り上げる結果になってしまったことは、自分としては不幸な偶然なのだと考えている。
 というよりも、私が今回、この話題(菅さんが自著の新書版の発売に当たって、元の単行本の記述を削除したこと)を取り上げるのは、首相の政治姿勢を批判するためというよりは、一人の出版業界人として、コトのなりゆきに心を痛めているからだ。

 私の受け止め方としては、本件は、政治的なイシューであるよりは、自分のホームグラウンドである出版業界にふりかかっている不幸な災厄だ。われわれは、瀕死の業界の中で暮らしている。このたびの出来事を通じて、私は、その死に瀕している古い産業の断末魔の声を聴いた気がしている。

 この10月20日付で、文藝春秋から新書が発売された。タイトルは『政治家の覚悟』。著者は菅氏だ。書影を見ると、帯には、「緊急出版 新総理の原点」という惹句が踊っている。同じ帯には「官僚を動かせ」というスローガンが赤地に白抜きの文字で刻印されていたりもする。なるほど。

 昨晩のうちに早速電子書籍版を購入して、ざっと目を通した。
 一読した時点での感想をお知らせしておくと、典型的な政治家の来歴自慢書籍だと言って良い。「ドヤ本」という言い方に果たして前例があるものなのかどうか、本書などは、まずそれと思って間違いなかろう。地元の代議士さんや立候補予定者が資金パーティーや「励ます会」で配布するタイプの一冊だ。

 さてしかし、本書は書き下ろしの新著ではない。内容的には、2012年に同じ文藝春秋が刊行した同名の単行本を新書の体裁で改訂したいわゆる「リライト本」だ。この旨は、新書版の冒頭に新たに書き加えられた「はじめに」の末尾に以下のように明記されている。

 《本書は、二〇一二年三月に刊行した拙著『政治家の覚悟 官僚を動かせ』(文藝春秋企画出版部)の第一章、第二章を再収録したものです。加えて、雑誌『文藝春秋』での官房長官時代のインタビューを再収録しています。政治主導、行政の縦割り打破をはじめとして、私が政治家として取り組んできた「原点」がここに記されているといえます。これまで述べてきた数々の課題も、当時と同様の覚悟をもって全力で取り組んでいくつもりです。
※菅 義偉. 政治家の覚悟 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.140-144). Kindle 版. 》

 この記述の後に[編集部注]というただし書きを付した上で、以下の文言が記載されている。

 《再収録にあたっては、いずれも原文をそのまま掲載した。社会状況や各種データ・数字、団体の名称、人物の肩書き、表記方法などは初出時のもの。ただし、誤字脱字などは改めた。年代は西暦で統一した。タイトル、文中の小見出しは編集部が適宜改めている。※菅 義偉. 政治家の覚悟 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.145-148). Kindle 版.》
 この「はじめに」と「編集部注」を見る限り、今回の新書版の記述は2012年に同じ編集部が刊行した同名の書籍と基本的には同一であるように思える。