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 前回に引き続き、日本学術会議の会員任命の話をする。

 第一報から一週間が経過して、この問題の中心的な論点は、任命権の実質的な意味であるとか、法律的な根拠の有無といった当初注目されたところから、少しずつ別のポイントに重心を移しつつある。そして、この論点のズレっぷりは、結果として、新政権の中枢メンバーが学術会議の人事に介入したことの真意を明らかにしつつある。さらに、私の目には、この間に次々とあらわれた新しい視点が、わが国の社会に広がりつつある分断を反映しているように見える。今回は、その「分断」に注目してみようと思っている。

 菅義偉総理大臣は、日本学術会議の推薦名簿に記載されていたメンバーのうちの6人を任命しなかった理由を、いまだに説明していない。

 加藤勝信官房長官も、同様だ。
 「人事のことなので(説明を)差し控えさせていただきます」
 という不可解な発言を繰り返すばかりで、その回答のひとつ先にある「人事のことを説明しない理由」を明らかにしていない。

 何度驚いても驚き足りないのは、官房長官を取り囲む官邸記者クラブの面々が、「次の矢」の質問を決して口にしないことだ。彼らは官房長官の
 「お答えを差し控えさせていただく」
 という、
 「君たちに回答するつもりはない」
 と解釈するほかにどうしようもない、極めて不誠実な回答をアタマから浴びせられて、その回答を押し頂く形で、おとなしく黙り込んでいる。まるでママに叱られた小学二年生みたいに、だ。

 私は、官邸記者クラブのメンバーたちが官房長官に黙らされている動画を見るたびに、必ず
 「君たちは子供の使いなのか?」
 「いったいどこの世界の御用聞きなんだ?」

 という疑問でアタマがいっぱいになる。

 これほどまでに記者がバカにされている国を、果たして文明国と呼んで良いものなのだろうか。

 とはいえ、これが、まぎれもない現実であることは認めなければならない。
 つまり、うちの国のジャーナリストは、チキン揃いなのである。

 「長官が回答を差し控える理由を教えてください」
 「どうして人事のことだと回答を差し控えるのでしょうか」
 「人事について回答を差し控える法律的な根拠は?」
 「差し控えるとおっしゃっているのはつまり、長官がご自分の中に回答を持っているにもかかわらず、その回答をわれわれの前に開示することを拒否していると、そういうことでしょうか」
 「つまり、回答を拒絶したというふうに受け止めて差し支えないわけですね?」

 という、この程度の簡単な質問をあえて口に出して発音することができないほど、彼らは臆病なのである。

 そして、官邸記者クラブに集うエリート記者がひとり残らず腰抜けの臆病者であるというこの事実を、官房長官として約8年間にわたって自分の目でつぶさに観察してきた経験が、菅新首相の人事観というのか人間観の根本のところを形成しているのであろうと私は推察している。