男だけの集団では、その簡単な決断ができない。
 「オレの顔をツブすのか?」
 「いや、そんなことでは……」
 「でも、延期なんてことになったら、各方面に謝罪行脚をすることになるのはオレだぞ。それをおまえたちはオレにやれというのか?」
 てな調子の、メンツの問題が持ち上がるからだ。

 私にもおぼえがある。
 とにかく、男が10人以上集まって何かを決める話になると、話は、プランの妥当性より会議参加者のメンツの問題、ないしはサル山メンバー相互のマウントの取り合いの話になる。必ずそうなる。

 現政権は、特にその傾向が強い。

 もうひとつ指摘しておきたいのは、男の子(いっそ「クソガキ」という言葉を使っても良い)の集団が何かを決める段になると、いつしか、焦点は「度胸比べ」に落着するということだ。

 ホモソの会議では、「妥当な案」や、「穏当なプラン」よりも、「冒険的な結論」や、「男らしいチャレンジ」に人気が集まる。
 「なにビビってんだよw」
 とつっこまれそうな意見は、そもそも持ち出すことさえはばかられる。

 むしろ
 「そんな思い切ったこと言って大丈夫ですか」
 みたいなあおり意見が無言の尊敬を集めるわけです。
 そういう意味で、
 「どっちにしたってある程度の感染は防げないわけだから、そこんとこは目ぇつぶって、ひとつ経済をバンバン回す方向で行こうじゃないか」
 「そうだとも、長い目で見れば、そっちの方が人の命を救うことになる」
 「勇気だよ勇気」
 「そうだよな。ほっといても死ぬような年寄りが一年か二年早くくたばることを恐れて、経済をシュリンクさせたら、それこそ将来を担う若者や子供たちが中長期的に死ぬことになる」
 「おっしゃる通りですね先生。政治家は時には臆病な国民が目を向けないところに向けて断を下さないといけない」
 「オレはこの政策にクビをかけるつもりでいるよ」
 「オレもコワいものはない」
 って、これ、出入り前の反社会勢力の決起集会みたいだけど、昨今の閣議って、たぶんこんな空気なんだと思う。

 一億総玉砕みたいなことを、たったの十数人で決められるのはいやだなあ。
 だから、私は思いっきりビビった意見を繰り返しておくことにします。
 ぼくは死にたくないです。
 望むことはそれだけです。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

■変更履歴
掲載当初、「人間を『死にそうな人』と『死にそうでない人』に分類したうえで、後者の命は救うに値しないということを暗に述べている」とありましたが、「後者」は「前者」の誤りです。お詫びして訂正します。[2020/07/17 17:45]

延々と続く無責任体制の空気はいつから始まった?

現状肯定の圧力に抗して5年間
「これはおかしい」と、声を上げ続けたコラムの集大成
「ア・ピース・オブ・警句」が書籍化です!


ア・ピース・オブ・警句<br>5年間の「空気の研究」 2015-2019
ア・ピース・オブ・警句
5年間の「空気の研究」 2015-2019

 同じタイプの出来事が酔っぱらいのデジャブみたいに反復してきたこの5年の間に、自分が、五輪と政権に関しての細かいあれこれを、それこそ空気のようにほとんどすべて忘れている。

 私たちはあまりにもよく似た事件の繰り返しに慣らされて、感覚を鈍磨させられてきた。

 それが日本の私たちの、この5年間だった。
 まとめて読んでみて、そのことがはじめてわかる。

 別の言い方をすれば、私たちは、自分たちがいかに狂っていたのかを、その狂気の勤勉な記録者であったこの5年間のオダジマに教えてもらうという、得難い経験を本書から得ることになるわけだ。

 ぜひ、読んで、ご自身の記憶の消えっぷりを確認してみてほしい。(まえがきより)

 人気連載「ア・ピース・オブ・警句」の5年間の集大成、3月16日、満を持して刊行。

 3月20日にはミシマ社さんから『小田嶋隆のコラムの切り口』も刊行されました。

この記事はシリーズ「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。